□月 ●日  No1452 ノスタルジックフード


例の神社に行ったら涙を流している鴉天狗の姿を見てびっくりする。
涙と言ってもバイオレンス的な涙とは違う。
自称現人神が一生懸命、殴ったわけではないとか、所場代を請求した訳じゃないとか
要らぬ事を言っているのはご愛敬である。


おねえさんが指さした先に、ビデオ映像が映っていた。
やたら暑苦しいおっさんが熱くなれとかと騒いでいる奴だ。
まさかそれで泣いているのかと鴉天狗に尋ねたら無言のまま扇子で頭を叩かれた。


彼女が何を見て涙を流していたのか。 それは背景に映された海だった。
なんでも望郷の念に駆られるのだという。
幻想郷には一応海はない。 だからこそ今後も見ることができないであろう
海の映像を見て急にノスタルジックな気分にさせられたのかも知れない。


って思った私が馬鹿だった。
天狗と自称現人神が揃って海産物を食べたいと言い出したからだ。
みればビデオは魚釣りの場面と釣った魚を食べているおっさんの姿が。
結局、こちらで確認します検討しますとだけ伝えてその場を離れた。


幻想郷に海産物を運ぶとはかなり面倒な仕事だが
宛はある。 まず海産物を月の都に運んで一瞬だが月の海に放り込む。
そうすれば一応幻想郷産扱いになって合法的に物を持って行けるのだ。
これを「奥義 産地詐称」と呼ぶ。


このテクニックにより一応月産って名目で魚を運ぶことに成功する。
輸送方法は、月の技術による仮死状態移動で賄う。
いつか使うときが来ると思っていたがまさかここで利用することになるとは。


自称現人神がまさか本当に持ってくるとはと言って驚いていた。
いや、これ外の世界の食べ物じゃないからと言ったらもっと驚いていた。
嘘はついていない。 月にあるというだけで次も食べたいと言うのを
封じるのが目的だ。


結局久々の海産物を例の神社で食べることになったが、
天狗が一口食べる旅にしばらく沈黙していたのが印象的だった。
こういう反応が見られるからこの仕事は面白い。