□月 ○日  No540 謎のアフロ


幻想郷に関わった人たちは、死ぬまで守秘義務と向き合わないといけない。
しかし、そこは外見上民間企業である。 幻想郷と関わったノウハウを商売に生かそうと
考える人物も少なからず存在するのである。


今日、朝倉達と呑みに行ったビアガーデンの店主もその一人。私の前任者の一人である彼は
顔を黒く縫って対月兎対応サングラスをかけ、アフロヘアといういでたちのおっさんである。
あまりに危険きわまりない外見に圧倒されしばし絶句した。
だが、彼の年齢を聞いて更に驚いた。 外見上は40歳半ばだと思っていたのに
なんと80歳なのである。 最初妖怪化した人間だとも思ったが実際は違うらしい。
朝倉に言わせると冥界にいた期間が極端に長いために肉体年齢は若いまま
戸籍上の年齢だけが過ぎていったという。
定年退職したあとは妖怪相手のビアガーデンの経営に乗り出し今の店にまで大きくした。
結界の外の世界に住む妖怪たちを顧客の中心にする彼の戦略は当たったわけだ。


冬のビアガーデンというのにお客がごったかえしている。
八雲商事在籍時代に学んだ寒さ対策技術を使っていると説明を受けた。
店内はコートを脱いでもさらに汗ばむ気温に調整されている。酒がすすむわけである。


今日、このビアガーデンに行ったのは他でもない浅間のことである。
つい先日のこと浅間がここに呑みに行ってすったもんだのやりとりの挙げ句
彼女の年収に匹敵する額を飲み食いしてしまったらしい。
うちの会社のOBということで、支払いを遅らせたり分割払いにするべく交渉することになった。
するとアフロのおっさんは私と二人で話がしたいと言ってきた。


何事かと思ったが単なる世話話であった。 私がよく知る妖怪たちの近況が知りたい様子だった。
ヴァンパイアの主人は大人しくしているのか、朝倉やボスは変わらないか。
特に彼が強調したのは、妖怪とは男女関係になるなということだった。
当たり障りがないように配慮して話したつもりだったが、相手も大体状況を掴んだらしい。
また幾つか興味深い話も聞いた。 小兎姫が最近ここを訪れているらしい。
そして月兎たちがここで呑んでいるという話も聞いた。
思った以上に月の人間達はここに進入を果たしているようである。
また浅間についても、妖怪と今すぐやりあえる能力と太鼓判を押していた。 


最終的に朝倉の顔を立てるということで分割払い+少し価格をまけてもらうことで
交渉成立した。 後で聞いた話だが、昔は朝倉の下で働いていたらしい。
今回の費用は大半を経費で落とすという。 
浅間だけ特別扱いかと聞いたら、訓練コスト分がまるまる浮いているから安いものだと言われた。
どうやら私はOLさんより弱いらしい。