□月 ★日  No594 退役列車カムバック


岡崎が難しい顔をして図面を眺めている。 なんでも輸送ペースが早すぎて列車の消耗が激しいらしい。
確かにここ最近幻想郷への物資輸送頻度が激増している。
幻想郷がインフレーションを繰り返した結果、物資輸送が間に合わないらしい。
列車は月仕様への改装費を利用して大増産を行っているが、現場への投入はどうしても試運転の関係上
半年後くらいになるらしい。


幻想郷への物資輸送と言っても物事は単純ではない。 たとえばネジ一個にしたってたくさんの種類がある。
食べ物も多様性が求められる。幻想郷住民が増えているため彼らの胃袋を支える食料も大問題だ。
幻想郷内部で自給できるものは自給してもらうとしても、あまりに自給率を高めると、
今度はそれを支える八百万のカミが疲弊する恐れもある。 例の神社のおねえさんやケロちゃん帽のカミ様も
幻想郷の食糧自給率を上げるために尽力してもらうことになっている。
それまでは、当面忙しい状態が続きそうだ。


隙間妖怪はこの現象に対する根本的対策を講じると言っていた。
それが去年の話だ。 結果なにをおっ始めたのかは見ての通りである。
月の世界が幻想郷の一部になれば、月の技術によってエネルギー問題や物資問題は解決するかもしれない。
いわば幻想郷の独立計画と言ったところだろうと私は考えている。


さて、そろそろ彼岸の入りである。専用の列車運送も運行しなければならず大混乱である。
人員は足りているが大問題は、列車が足りないと言うことだ。 数ヶ月前に故障した列車がここにきて効いている。
そこで岡崎が執った手段はなんと一度は退役した旧式の列車の再動員だった。
退役した列車に再び乗れるというのはまさにお彼岸ならではことでとても感慨深い。
まさかまた乗れるとは思っていなかったので感慨もひとしおといったところか。


慣れているとはいえ旧式機材はいろいろ操作があって面倒ではある。
何より、幻想郷への移動は何でこんなに面倒なのかと言うくらい面倒だった。
頭の中でずいぶん美化していたんだなと感じ入る。
それでも数時間で勘は取り戻すことができた。 体で覚えたものはそうやすやすとなくならないものだ。


列車の内装はところどころ強引に補修した形跡があってまるでモザイクのような様相である。
ソファにあいた穴をガムテープで補修するのはやめてほしい。 急造とはいえちょっと悲しすぎる。
さすがに亡霊を乗せるわけにはいかず新鮮さも要求されない物資の輸送ではあったが
こんなひとときも悪くはない。