毎年、定期的に桐ダンスとシリカゲルを注文してくる妖怪がいる。
桐タンスは顕界ではもはや邪魔者扱いされており、無償で引き取るととても喜ばれる。
そんな回収した桐タンスを幻想郷に送ると結構な収益になるのだ。 とてもおいしい商売である。
大量の桐たんすがどのように再利用されるのかとても気になっていた。
その謎が今日解けた。 タンスが置いてある貯蔵庫を見せてもらった。
妖怪たちはとても長寿である。 数百年生きていられる者もいればほぼ無限に生きられる奴もいる。
外見はまず変わらないから衣服はそのまま使用できるかというとそうではない。
流行の問題があるのだ。
妖怪たちは自分の精神が老化するのを防ぐために、最新の服をほしがる傾向がある。
だからこそわれわれの商売が成り立つわけだ。
だが、幻想郷は流行を追い続けられるほど物質的に満たされているわけではない。
使える衣服はどうにかして再利用しないといけない。
ここからが、妖怪らしい展開なのだが流行というものは10年くらいで一巡する。
古いものが流行の最先端に躍り出るときがあるのだ。 妖怪にとって10年なんて大した時間ではない。
そこで現われたのが衣服レンタルビジネス。 あらかじめ契約しておけば魔法一つでその衣服を瞬時にレンタル
できる画期的な商法だ。
弾幕ごっこでダメになった衣服は当社に運び込まれるが、無事だった服装は一か所に集められて
そのまま保管される。 虫娘がここでバイトをしていて結構な稼ぎを得ている。
年契約のためお金が安定して入ってくるのもよい。
この店の店長と適当に世話話していたら、いきなりものすごい剣幕の妖怪が一匹乱入してきた。
12年前に衣服を預けたが元に戻したら服装が破けたという。
クリーニングの過程で服が縮んだのだろうと言うのである。
ところが店長さんも一歩も引かない。単に太っただけという。
なぜならタンスは月の魔法が施されて、その中の時間経過が遅くなるからである。
一子相伝の術としてこの店の店長さんに代々受け継がれているそうだ。
朝倉が解析させてくれと申し出てもはいとは言ってくれなかった曰くつきの術だ。
義理に生きる妖怪たちの気質を考えれば当然のことだ。
水掛け論になりそうだったので「今の姿の方が可愛いから、新しい服でも買えば」と
横から突っ込みを入れたら顔を真っ赤にしつつ静かになってくれた。
店長さんは私に感謝していたが、私に言わせれば新しいお客様が増えるわけで大いに結構である。
私が極端なやせ形が苦手だとか、そういうことは断じてない。そう断じて。