□月 ★日  No596 幻想の世界の丁稚奉公


上白沢が珍しくため息をついている。 塾の生徒が丁稚奉公に出されることになり、
通わせることができなくなったという。
子供たちはこうしてこの塾を卒業する。 卒業式なんてものはやらない。
学問の道を進む者はそのまま学校へと進学し、奉公に出される者は突然になくなってしまう。

 
我々のいるところでは子供の時分は学校に行くことが当たり前のことだったが、昔はこういった光景が
珍しくなかったらしい。 幻想郷はそんな丁稚奉公の制度が今も息づいている。


丁稚奉公とは子供のころから親元を離れて住み込みで働きながら商売を学ぶ育成システムのことだ。
体のいい口減らしの方法として丁稚奉公に出すケースも存在するが
いわゆる商売の英才教育システムと言っても過言ではない。
その証拠に長男が重んじられる幻想郷において、丁稚からのたたき上げが店を継ぐことだって
珍しくないのである。 完全な実力主義の世界である。
霧雨店ではそれが元でちょっとしたトラブルも起こっている。


幻想郷の外の世界でも、大企業と言われているところの経営者は丁稚奉公からのし上がった者が
多いらしい。  


奉公に出された子供はそれなりに読み書きができるようになっていた。
親もそろそろ頃合いと見て丁稚奉公に出したのだろう。 
この時期は新しいことをするのに縁起が良いとされている。
決してネガティブな事態ではないと思いたいところだ。


丁稚のシステムは幻想郷の外からきた人たちの駆け込み寺としても機能している。
幻想郷外の人間は教育水準が高いため読み書き計算は間違いなくできる。
そこで人間をたたき直されながら商売を学んでいくのである。
ただし、丁稚奉公では夜遅くまで働くし賃金はない。 幻想郷の外の感覚でいられると
かなり辛いようだ。 
脱落すればそのまま妖怪の餌になってもらうしかない。 うちの会社でもそこまでは
面倒見切れないのが現実だ。


上白沢にいつから奉公に出されたかと聞かれてしまった。
正直に話すと、あきれた表情で働ける年齢になったら働いて
家元に仕送りをするのが常識と怒られてしまった。
幻想郷に住む人の感覚はそんなものだと割り切っているので反論するのはやめた。