□月 ★日  No597 ちょっとベタな鍋の話


阿礼乙女のところへ品物を配達しようとしたら、妖精捕獲の罠にルーミアがかかっているのを発見する。
網の中でもがきながら、えぐえぐと泣いているので仕方なく救助してやった。
どうも奥の方でおいしそうな臭いが漂っているとのこと。


奥の様子を覗いてみたらちょうどお鍋の準備をしていたようである。
いい臭いの正体はこれのようだ。
ここ数日小春日和が続いていたと思ったら急に寒くなってきたので
体を温めるには丁度いいのだろう。 体が弱い阿礼乙女が風邪を引かないようにとの配慮のようだ。
料理を作っているのは明羅女史である。器用な人である。


まだ涙を浮かべているルーミアを見た阿礼乙女、何を思ったのかいきなり「闇鍋」にしようと言い出した。
闇鍋というのは、暗がりの中でとった食べ物を確実に食すことがルールの鍋である。
もともとは偏食を直すために考え出されたゲームだそうで、決して草履など人間が食べられない
ものをいれるのではないらしい。


ところが幻想郷だと闇鍋があまり成り立たない。もともと夜に生きる妖怪たちは
ほとんど夜目が利く。 だから闇鍋を企画しても普通に鍋を食べるのと何ら変わらないのである。
がしかし、ルーミアが発生させる闇は別物だ。


なにしろルーミアが発生させる闇は術者自身すら前方が見えなくなると言う困った代物なのだ。
明羅女史によると暗視ゴーグルも効かないらしく、魔力を帯びた闇の塊という形容が正しいらしい。
応用すればいっぱしの兵器として利用できそうだが、過去朝倉を含め何人かの魔法使いが
ルーミアが発生させるという闇を解析しようと試みたがいずれも不調に終わった。


足りない材料を買い込んで闇鍋パーティ開始。
闇鍋ではお箸で何をとったのか察知されないように、おたまでとることが必要だ。
もう一つのルールは人間が食える物を入れること。 ゲテモノを入れる奴もいるが
自分が食べてしまうリスクを考えたらそんなことはやっていられない。


ここでみんな重要な事実に気がついた。 鍋の位置がわからないのである。
普通なら火から鍋の位置は察知できるのだが、その火すら見えないのである。
阿礼乙女がどうやって食べようと明羅女史に相談したら、みんなに手を差し出しなさいと指示を出した。
手に暖かいお椀の感覚がやってきた。 どうやら明羅女史は達人技でみんなに配膳してしまったようである。


おいしい鍋をほおばりながら、これでは闇鍋の意味がないなと思ってしまった。
醤油風味のおいしい鍋だった。 今度たれのレシピを教えてもらいたいところだ。