□月 ●日  No664 続水子の話


ある農家の家で赤子が生まれるというので、必要な道具を配送していたのだが
笑い声が一転悲鳴に変わって騒然となった。
何事かと思って様子を覗いてみると、生まれた子供の姿形に違和感がある。
所謂畸形である。 多くの場合こうした赤子は内蔵に致命的な障がいを抱えている場合が多いため
医療設備の乏しい幻想郷ではすぐに天寿を全うしてしまう。


こうした子供が生まれたとき、経済状態の良い国なら医療設備を駆使して生かすことだろう。
だが幻想郷はお世辞にも豊かではない。そうした場合採られる手段はひとつ。
水子として殺してしまうことだ。 残酷な事だとは思う。
だが、博麗大結界が今の姿になる以前はこうしたことが各地で行われていたことも事実だ。


ところがここで一つの問題が発生する。 河童との関係である。
河童達は中絶する女性に容認しないという特性がある。
なぜなら河童は水子霊の転じたものだからである。


一体どうするのか?個人的な興味でその場に居続けたのだが
ここでにわかに信じられない事態が起こった。
一気に周囲がお祭り騒ぎになった。家に赤飯が持ち込まれて祝い会場が急遽作られてしまった。
幻想郷では妖怪が人間と近いところに住んでいる。
そして妖怪たちは人間に害を与える者もいるが、同時に有り難い存在でもある。
人間の娘が妖怪を生んだ。 → 人間の娘だから人間の味方だ → 御利益があるぞ
という考え方のようだ。


村中の人が集まって有り難がるやら、手を併せるやらたちまち大騒ぎである。


私もお願い事をするんだ。と促されて釈然としないままではあるがお参り。
まともな人間の嫁さんくださいとお願いしてみた。
ここに水子として間引くことができない場合の回答をみた気がした。


その赤子はその日の晩に静かに息を引き取ったらしい。
村人達は自分たちの願いを天に届けるために旅立ったと考えているようだ。
祭りは一晩中続いたという。 


余談だが赤子を生んだ女性の家は贈り物でごった返したため
最後は床が抜けたらしい。
元は妖怪の追求を避けるためのルールだったのかもしれない。
だが幻想郷にはさまざまな生活の知恵が買うされているだろうと思うのだ。