□月 ●日  No677 幻想郷ではたらくひとたち 正規雇用と非正規雇用


いつものように出社すると朝倉に抗議している男性の姿。
つい最近、準社員として入って来た男性のようだ。
同じ仕事をしているように見えるのに給料の差があるのはどうかという内容のようだ。


このとき朝倉は毎度その人を射検場へ連れて行く。
そこで飛んできたボールいくつかを消し炭にする。
「こういうことを平気でやってくる妖怪と接する気があるなら、正社員への道を私がつけてやる。」
と言うと殆どぐうの音も出ないようだ。





うちの部署にやってくる新入社員。 パートさんのときもあれば正社員、そして嘱託社員の場合もある。
ただし人材派遣会社は利用しない。 これは長期間雇用を前提にした会社のシステムを採用しているからだと
ボスから聞いたことがある。


うちの会社が人材派遣会社を利用しない理由はとても単純だ。
幻想郷という表向きは秘密である地域を取り扱うのに流動的な人材は要らないからである。
決して派遣業そのものを否定しているわけではない。
正社員の割合を無計画に増やしたら人件費が増えるか雇用が減るかのどちらかである。
どちらにしても社会的な貢献度は減ってしまうことになるだろう。


ただ、人件費を削らないといけない観点から非正規雇用は一定割合ある。
正規雇用正規雇用の違いは幻想郷へ行くかどうかにあるらしい。
会社では幻想郷での仕事を「転勤」として扱っているからだそうだ。
しかしながら、幻想郷に行くことを拒む人や妖怪がいたからって会社として貢献していないわけではない。


従って正社員とそのほかの社員に大きな待遇の違いはない。
下手すると事務方のパートさんの方が我々よりも発言力が高い場合もある。
一応給料の差はあるがほとんど危険手当みたいなもので不満は少ない。
幻想郷を直接は知らない社員にとってもデスマシン妹君や風見女史といった危険度S級妖怪の話は
漏れ伝わってくるものだ。
別のパートさんから命を切り売りしていると言われたが全く持ってその通りのような気がする。


正規雇用を幻想郷に派遣しない理由にはもう一つある。
どうしても社会的不安定感がぬぐえないため、いつも不安を抱えている人材が多いからだ。
そこのところを妖怪に突かれると大事故になってしまう。
具体的には妖怪に魅入られて犯罪を犯すケースや、餌になるケースである。


今日うちに配属された社員は商社から転職した女の子とということである。
朝倉と里香女史の落胆たるや呆れるばかりである。
新入社員がやってきたらまずは面接をする。面接をするのはボスの役目だ。
どういう役割が適任か、どこに居場所を作るのかを重視するそうだ。
居場所を作らないと、それは精神的不安定に繋がり、結果的に事故を起こすという。
今日新しく貼ってきた女の子はとりあえず浅間と同じ総務的な仕事をしてもらうことになりそうだ。


ボスは居場所は本来自分でつくるものであるが、そのつくるための元を用意するのは
会社の役目だと言っていた。 案外そんなものかも知れない。


朝倉に抗議した男性から話を聞いたら、よくあんな危険な人たちと接することができるなと
言われた。 「たぶん運が良かっただけだと思う。」と言うとうんうんと頷いていた。
お互い自分のポジションで頑張ろうと誓い合ってとりあえず仕事に戻った。