□月 ●日  No885 死体運び猫の生態


地霊殿に住んでいる死体運び猫から注文を受ける。
この猫、一応灼熱地獄逝きを宣告された亡者を運ぶのが仕事なのだが、コミュニケーション能力が極めて高く
ジョークも通じるので人気者で知られている。
そんな彼女だが死体を運んでいる仕事柄、どうしても臭いが気になって仕方ないらしく、
ちょくちょく脱臭剤の注文を受けている。


地底の異変を真っ先に伝えてくれたのは彼女だった。
世話話の中でちょろっと漏らしたので助かった。 
本人は地霊殿の主人が心を読むのが怖いと思っているようだが、十分すぎる程口が軽いのだから
関係ないと思うのだが私だけだろうか。


さて、彼女が運んでいる荷物なのだが実は顕界からきている結構危ないアイテムばかりである。
こいつを処分する名目でかなりの額が請求されており、これが地霊殿運営の主な資金源になっている。
どうやら送っているのは我々でなく霊能局のようだ。聞けば千年近く前から怨霊を引き受けているらしい。
最近では米帝からも幽霊を捉えたトラップを引き受けておりこれまた結構な収益が上がっている。
いわゆる稼ぎ頭と言うべき存在なのだ。


今日も怨霊を封じたとされるトラップボックスが運ばれていていたが
送り元が櫻崎とかいてあって盛大に吹いた。
死体運び猫に言わせると問答無用で強引に吸い出しているから説得に時間が掛るとぼやいていた。
この前も大量にダビングされた怨霊を封じたビデオテープを運んだそうだが
最初はこの世に関する恨み節が、いつしか恋愛相談に変って、最後はやっぱり外見よねって話になったという。
会話のプロセスが大いに気になるところだ。


さて、今日同時に彼女の衣服も用意したのだが、臭いがすぐに染みるのか交換頻度もかなり高い。
一応は閻魔様のところで裁かれる段階でおおかたの属性は失われるらしいのだが
どうやらこの臭いは死体の臭いというよりはもっと別の臭いというものらしい。
実際、クリーニング処理に禊(みそぎ)が必要とあった覚えがある。
衣服はスプリンター体型用の特注品で、全体的にとても締まっている。
幻想郷にいる妖怪の中でも特に理想的な体型として知る人ぞ知る存在なのだとか。


余談であるが、何故地上の妖怪に危険を伝える発想に至ったのかどうしても気になっていたが
どうも彼女は意識だけを地上に派遣することができるらしいと技術部からの指摘で分かった。
なんでも彼女の端末を式神として派遣することができるのだとか。


彼女がコミュニケーション能力が高い理由もそれならすぐに理解できる。
怨霊とまともに会話するには彼らの価値観を理解している必要がある。
つまるところこの猫は顕界の価値観を理解しているということになる。
そして自分の端末を顕界に送り込んでいれば当然同じ話題に持って行くのも容易なのだ。


そう言えば似ている式神を見たことがあるような無いような気がしてきた。
一体なんだったのだろう。
本人に聞いたら、秘密だと言っていたが何となく目星はついている。