□月 ●日  No889 ディテクティブストーリー Pert2


それは俺にとって最後の事件だった。


色々調べているうちに、自分以外にこの件を追いかけていた者がいたことがわかった。
しかし大半の人は、自殺したり行方不明になったりと碌な最期を遂げていなかった。
そんな人物の生き残りがとあるアパートに住んでいることが分かった。
何とか電話を通し話を聞かせて貰えることになった。


肝心のアパートを尋ねると最初に飛び込んできたのは無数のハエだった。
チャイムを鳴らしても反応が無かったので試しにドアのノブを回すとあっさりと開いたのだ。
住居不法侵入と分かっていたが中の住人を呼びかけながら奥の様子を見ようとしたら
この有様だったのだ。 追って漂う卵が腐ったような臭い。
明らかに奥で開いては仏様になっているだろう。 遅かったか。


警察の人の事情聴取も終わらせて、アパートには特殊清掃の関係者が出入りしていた。
彼らは貴重な情報源だ。費用の見積もりを知りたいと言うと中で何が起こっていたのか
撮影した写真を交えながら事細かに教えてくれた。


仏様は体中を自分で切り刻みながら、出血多量で死んだようだ。
壁や床には血しぶきの跡が残り燦々たる有様だったらしい。
彼に見せられた写真の中、アパートの壁にはダイイングメッセージが書かれていた。
「ウサギ」「赤い瞳に気をつけろ」「紅の女王に会え」とそれぞれ走り書きがなされいてた。
更に床にはトランプが散乱していたという。 


クライアントに電話にて中間報告する。
何故か、同業者の死について興味を持っていたように感じた。
直接突っ込まれたわけではない。 彼らの口調でなんとなくそうではないかと察知したまでだ。
またクライアントからコトヒメの綴りを聞けた。 「小兎姫」彼女に関せられた「兎」の文字。
もしかすると、ホトケは彼女に殺されたのではないか。
どうやらこの件は自分が思っている以上に根が深いようだ。


トランプ、紅の女王、ウサギから連想される言葉を想像する。
そこから「不思議の国のアリス」というキーワードが連想された。
消えた神社、それに関わっていたというコトヒメ。
彼女の名前は不思議の国への案内役である兎。
すべては偶然であろうか? あまりに出来すぎている。


仮説ではあるがモリヤ神社は不思議の国のアリスのように建造物ごと不思議の国へと行ってしまったのではないか。
ならば不思議の国への行き方をトレースすれば、彼女に会うことができるのではないか。


アリスの物語を紐解いてみる。 不思議の国へと繋がる列車のくだり。
地図を見ると物語に符合するような線路が一本延びていた。
それが本命に間違いないと確信した。


それは 俺にとって最後の仕事だった。