□月 ●日  No975 親はなくとも子は育つ


白玉楼に何度か出入りしたためかどうにか現在のお庭番から顔を覚えて貰った。
このお庭番、真面目なのはよく分かるのだがいかんせん融通が全く利かない。
侵入者とあらば容赦なく斬りつけてくる危険な猛獣である。
町中にいる彼女は割と人畜無害であることが知られているが
ここでの行動を知る者はあまりいい印象をもつことが出来ないだろう。


本当はあまり関わり合いたくないのだが、魂魄からの依頼で
一部装備の刷新を頼まれた。 魂魄が行けばいいと度々思うのだが本人が行くと依頼心が芽生えてしまういうので
色々な人の譲り合いの末結局私が狩出される羽目になった次第。
装備とは月の都に行ったときの基礎装備の事である。
月の狂気に晒されやすい彼女を想って専用にチューニングされたアクセサリなどの類と言えばよい。
これまでも彼女については、月の狂気に晒されて目が真っ赤になるなどの問題が起っていた。
そこで薬屋に治療を依頼したこともあったのだが、今回はその必要がないよう装備レベルでの対策を取ったのである。


問題はその事実を本人には全く知らせなかったことである。
これは白玉楼の主人の依頼でもあった。自分が何者かによって護られていると悟られればきっと本人にとって
良くないであろうということだった。 魂魄と同じ事を言ったことに思わず苦笑してしまった。
しかし、どうやって新しいものとすり替えるかそれが問題だ。


そこで白玉楼の主人の荷物を用意するように見せかけつつタイミングを計ることにした。
悟られないようにするため、幾つかダミーとなる荷物を一緒に用意する。
装備を外すように促すのは白玉楼の主人。 失敗したら斬りつけられても文句は言えないだろう。
酷い貧乏くじだ。



白玉楼のお嬢様が一体どうやって装備を変えさせるのか、様子を見たら数刻も待たないうちに
本人を呼び出して新しい装備に変えなさいと言ってきた。
あまりにダイレクトすぎて思わずコメントに窮した。


するとお庭番は素直に装備変更に応じたではないか。これには私も口をあんぐりと開けるしかなかった。
すでにお庭番は装備を変える理由を察していたのだ。
そして、私に「防具をくださった方に有り難うとお伝えください」とまで言われてしまった。


どうやら届けるのは誰でも良かったらしい。
結局、自分が護られていることを認識することから依頼心の脱却が始まるのだということを知ったのは
帰社したあとの事だった。 回りくどい話ではあるが、とにかくお庭番の成長が認められただけでも
十分な収穫と言ったところかも知れない。
命があっただけマシということで。