□月 ●日  No974 大捜索


幻想郷で失踪した社員の捜索。
うちの会社の社員は幻想郷で自由に行動できるわけではない。 一定時間毎の報告義務と
行動範囲規制があり、それを遵守することが妖怪との契約となっている。
守らない場合は外の世界から来た人間同様に生命の危険にさらされることとなる。


この日時間になっても戻らない同僚がいた。勤務態度は至って良好。
プライベートでは色々と噂があるものの、特に他人に対してツッコミを入れるほどでもない。
最悪の事態が頭をよぎる。 


夜になると妖怪たちが捜索に加わりはじめる。 空から天狗たちが、水場を河童達が、
地下妖怪たちも加わり大捜索となった。
同時に我々に対しては情報収集のための事情聴取が始まった。
社内のうわさ話に詳しい浅間や北白河そして岡崎たちの話によればなんでもその同僚には最近彼女ができたらしい。
数日前から残業申請が頻発していた。 繁忙期ではないのでいくつかは却下されたようだ。
それでも本人はサービス残業を続けていたようだ。
そして北白河の口から気になることを聞いてしまった。 
どうやらその彼女が「できちゃった」らしいのだ。


ボスの許可を貰い同僚の机の中を捜索すると、片方のハンコが押された婚姻届が出てきた。
嫌な予感がほぼ的中した瞬間である。 朝倉と明羅女史が二人で頭を抱えていた。
魂魄が「せめてゴムをつけろ」と唸っていた。
簡単に言えばこうだ。 彼女に子供が出来てしまって結婚を迫られた結果、配達途中にとりあえず逃亡した。
こんなところだろう。 
幻想郷で逃走すれば警察組織は動かないで内々で処理出来ると考えたのだろうが甘い考えだったわけだ。


一方幻想郷では捜索方法がエスカレートしていた。
自称現人神をはじめとした迷惑発生源どもが動き出していた。
人数が増えた方がそうさくがはかどると思い放置していたがすぐに間違いだとわかった。
皆何かのお祭りだと思っておもしろ半分に行動し始めていた。
深夜だというのにてんやわんやの大騒ぎ。
おかげで起き出す人が現れて苦情がきたりと大変だった。


結局半日の捜索の後 民家の片隅で震える同僚を発見。
天狗たちに捕まった後、事情を知った妖怪たちの手により婚姻届にサインをすることとなった。
自業自得過ぎる。
こっちはこっちで、配達する先々でその同僚がどうなったと聞かれる羽目になった。
同僚は転属が決定しているが、いずれこの会社を去ることになると思う。