□月 ●日  No1022 残された時間


同僚の奥さんの葬式に参列した。 たまにうちの会社にやってきておのろけ風景を見せつけては
朝倉を嫉妬妖怪のような姿にさせてしまうような人だった。
だが、そのときには気づかなかったが彼女はすでに病魔に冒されている状態だった。
後で知ったのだが、彼女のたっての希望で子供を産んだものの癌が再発しで余命幾ばくもなかったそうだ。


今から一ヶ月くらい前、朝倉から彼女を幻想郷に送る手続きをするよう指示された。
一体何事かと思ったが、移送先の住居が薬屋の経営する診療所と書いてあった。
朝倉の狙いはすでに明らかだった。 オーバーテクノロジーを有する薬屋の技術をもって
同僚の奥さんの生命を救おうと考えていた。 
朝倉と薬屋はお世辞にも仲がよいとは言えないだけに朝倉の決断はよりいっそう重みがあった。


まあ慣れないことはするものではないようで、この動きはあっさりボスにばれた。
前例が出来てしまったら不味いと判断されたらしい。
そこでボスから告げられた条件が酷かった。 奥さんだけの移送にすること。
そして二度と帰ることができなくなることだ。


戻れないというのはすなわち、世間的に死んだと見なされると言うことだ。
生命保険も死んだと言うことで下りてしまうし、形式的に葬式をすることにもなるだろう。
薬屋に聞いたら自分がやればほぼ確実に助かるとのこと。
しかし、ここで重要な事実に気づいた。 子供は連れて行けないのである。


奥さんは幻想郷で生きているが、二度と会うことは敵わない。
ましてや幻想郷が現代人にとって過ごしやすい場所とは思えない。
私みたいにある程度訓練したとしても不便さを感じるところだ。しかも顕界と連絡手段を絶たれた状態では
結局生きながらにして死んでいるのと何ら変わらない。 まさにネクロファンタジアである。


ボスは運命を受け入れろと言いたかったかも知れない。
もし助かったとしても、幻想郷の生活に耐えられなくなってしまえば元も子もない。
そのような外の世界の人間を私も同僚も見てきたはずだ。
だから、残された時間をどうにかしようと考えることにしたようだった。
葬式の時、同僚がどこか満足したような顔をしていたのが印象的だったからだ。



紅魔館でちょっとした納品をしたときにメイド長に妙なことを聞かれた。
主人の能力の遠隔機能の試作版がどうかということだったが、
それくらい手心を加えても罰は当らないと考え聞き流すことにした。