□月 □日  No626 幻想郷における生活習慣病


薬屋のところに納品に行っていたら目が見えなくなったと訴える人が家族につれられてやってきた。
調べてみると眼底で出血が起こって、視神経を圧迫しているとのこと。 直ちに処置が行われたが
失われた視力はまず元に戻らないという。 
薬屋に病名を尋ねたところ「糖尿病」と言われた。 インスリンの注射が必要だが、注射を
理解してもらうだけでも一苦労だと嘆息していた。


幻想郷では生活習慣病とは無縁だと思っていたのだがこれはちょっとした驚きだった。
でもよく考えてみれば、呑兵衛の妖怪たちにつられて人間達のお酒の消費量も標準以上だし
深酒も多い。そしてなにより糖尿病についての知識がないから、処置が遅れやすい。
少ないのは高血圧。薄味指向の幻想郷では醤油のかけすぎとかは余りないらしい。
肥満も当然少ない。これは質素な食生活のためだがこのような質素な食生活に慣れた体で
急においしいものばかり食べる生活になると一気に生活習慣病に陥るのである。


永遠亭のニート姫は生活習慣病にならないのかと薬屋に尋ねると
メトセラ娘と遊ぶたびに正常な数字に戻ると言われた。 
コメントに窮する。


幻想郷には緊急医療もないので脳卒中心筋梗塞になればそのまま死ぬことになる。
ここで不思議な風習を目撃した。 妖怪たちは町中で突然亡くなった人をすぐに食べないのである。
まず肉親に伝えて、葬式の手続きをしてから土に帰る名目で食べてしまうらしい。
幻想郷の場合死んでから一日ほどで体が腐り始めてしまう。 
死体を冷やすには氷妖精を呼ぶことが最適だがそんな暇もなければ妖怪たちの胃袋に入れた方が
感染症のリスクを減らすことができるというわけだ。
彼らなりの知恵といったところか。 
その亡骸を食べる妖怪の目には涙がこぼれるらしい。
彼らなりに故人を偲んでいるのかも知れない。


薬屋は、お酒が原因で起こる肝硬変や肝臓ガン、糖尿病については手間ばかりかかるので
お酒はほどほどにしてほしいと愚痴っていた。
たぶんそれは無理な相談だと思う。
幻想郷においてお酒は特別な存在だ。体を清めたり、日々のストレスを忘れたり
カミ同士のスキンシップを図ったりと多種多様な使い道がある。
幻想郷における生活習慣病はちょっとした宿命なのかも知れない。