秋の長雨が続き、夏の暑さを洗い流す自然現象が各地で見られるこの頃。
政府霊能局局長である久保田は部下である小兎姫の報告を聞きながら思案していた。
我々のことを穢れた民族として忌み嫌っている月の民が何故今頃になって干渉を試みているのか。
彼らの行動には裏が有るのは間違いないことである。
しかし彼らの目的を探るのは困難を極めていたのだった。
「月兎が博麗大結界を突破したようです。」
「やはり、マルハチの仕業と見てよいか?」
「ええ、間違い有りません。」
彼らがマルハチと読んでいる株式会社八雲商事。妖怪たちの自治区である幻想郷に物資を運ぶ仕事を請け負うこの会社は、
同時に博麗大結界の一翼を担っている。
会社そのものが博麗大結界の一部であり、幻想入りを実行することが出来るように存在している。
元は幻想郷を維持するための資源を運ぶだけだったのだが最近、この会社を隠れ蓑にして
何かを行っているという噂を耳にするようになった。
この日、一匹の月兎が幻想郷へと辿り付いた。
これを手引きしたのもマルハチだという。
彼らとの遭遇は実におよそ40年前に遡る。
異星人との接触は当時宇宙開発で競争状態にあった二国の科学者たちを大いに湧かせることとなったが
我々の言葉を理解することができるのは間違いないにも関わらず、二国は満足に彼らと交流することが出来なかった。
それは後に我々を見下しているからだと分かるのだが、当時の人間はおそるおそる彼らと交信をするより
方法がなかったのである。
それがどうだろう。 月兎はマルハチの人間と行動を共にした。 しかもご丁寧にルート偽装までしていた。
マルハチは我々に隠れて月の民と直接接触できる方法を確立しているのではないか。
そう考えるのが自然だ。
そうすれば安全保障レベルで大きな脅威になる可能性がある。
小国が核ミサイルで恫喝して小銭を稼いでいるのとは訳が違う。
「で、巫女と遭遇とあったが、これは」
「博麗の巫女と接触をしましたが特に問題はありませんでした。
月兎は自力で竹林に進んだと思われます。」
小兎姫は資料を渡しながらテキパキと答えた。
今のところは博麗の巫女に影響はないようである。
だが、久保田には最大の懸案があった。
「ところでロケットの開発はどうなのかね」
「ロケットの完成度は70% 幻想郷の制作技術なので進捗分析に苦労しました。」
衛星写真から映し出されたものとは、不格好なロケットの写真である。
ロケットの形状はとても歪で元から飛ぶような構造をしていないものであった。
航空力学で考えればこんなものはすこし浮き上がっても空中分解するのが関の山である。
「まさか彼らは本当にヴァンパイアを月に送り届けるのでしょうか?」
小兎姫は問うた。
「恐らく、ヴァンパイアを片道切符で送りつける気なのだろう。
少なくても八雲紫の目的が分かるまでは我々はしばし監視活動を続けねばならぬな。」
「後手後手というわけですね。」
「手厳しいな」
小兎姫の皮肉に久保田は笑みで返した。
焦ったところで仕方ない。
霊能局にしてみれば、人間達の安全保障さえ確保できれば良いのである。
「ヴァンパイアはデコイに過ぎん、くれぐれも忘れぬようにな。」
「本命に相応しい連中が別にいるというわけですね」
小兎姫もまた笑みで返した。
要は人間が守れればそれでよいのだ。人間が損をしないよう立ち回る。
それが彼らの任務であった。