□月 ●日  No1166 打算的出会い


ムラサ船長の話をしてみる。
幻想郷では珍しく海難を司る妖怪だ。
彼女と大師様の出会いについては本人が毎度毎度脚色を交えながら自慢しているので
基本、放置している。


朝倉にいわせれば大師様とのエピソードは概ね間違ってはいないらしい。
しかし、大師様がなぜ船長を退治しようと考えたのかはかなりの打算があると言う。
海にいる妖怪の確保、それは海運の確保と資源の確保と決して無関係ではないというのである。


かつて大量輸送は船を用いないといけなかった。
我々が用いる列車はそうした大量輸送手段に風穴を開ける存在だ。
だが真に重要なのは船を用いた塩の輸送である。

幻想郷の妖怪が里の人間を食べなくなって久しい。
もちろんうちの会社が食物を安定供給しているからというのが基本的理由であるのだが
妖怪に塩を安定供給することで、人間を食べるメリットをなくしてしまうことが可能だった言うのである、


博麗大結界が今の姿になるときに起こった混乱はどちらかというと塩の争奪戦であった。
それは以前書いたとおりだ。
内陸にありすぎた幻想郷は塩湖すらなかった。
そもそも塩湖というのは地下深くで海とつながっているなどの特殊な条件がなければ成り立たない。
死海のように元々海だった土地が干上がってできたような場所でもない。
だから妖怪たちは塩分を手に入れるために人間を積極的に襲ったという背景がある。


なぜこのような生活をしないといけないのか。 それは幻想郷でとれる食物の多くが
植物系の食べ物にであり 植物に含まれるカリウムが排出時に塩分をセットで持って行ってしまう為である。
そのため妖怪たちは人間や家畜を襲って体液から塩を手に入れる方法をとらないといけなかったのである。


では、大量輸送手段を用いて妖怪たちに塩を送り続ければどうなるか。
妖怪たちは人間を食べないといけない理由がなくなるのだ。
まさに八雲商事のコンセプトそのものである。


しかし、そうなるとちょっとした疑問がわく。
それはもしかして妖怪たちを骨抜きにしようという意味ではないのかと朝倉に尋ねると
その通りと言われた。
大師様が封印されることになったとき、妖怪たちの抵抗が思ったよりもなかったのは
その辺の事情があるのではないかと最近思う。


ムラサ船長はその辺の目的もすべて含めた上で大師様に帰依した存在であるという。
大師様の遺志は結局我々が引き継いだわけだが、この辺の話はもっと掘り下げる必要があるようだ。