□月 ●日  No1175 正体不明の女の子


仮設の命蓮寺に通う女の子を発見。 関係者でもないのに境内の掃除を率先してこなしており感心する。
なんとなく情が移ったので、数度目の訪問の時、妖精にあげるはずのお菓子をあげた。
話を聞けば一応彼女は妖怪だという。 私の表情が全く変わらないのを見て大師様の関係者かと尋ねられたが
正直に違うと答えておいた。 一応それなりには警戒しているが。


この妖怪少女。話してみると確かにコミュニケーションは成り立つのだがいまいち考え方が掴みにくい。
もっとも人を煙に巻くような発言を繰り返す妖怪は別に珍しくないのであまり心配はしない。
ただ、彼女の表情が少々曇っているので、精一杯の賛辞のつもりでまるで「鵺」のようだと言ったらおいおい泣き出された。


鵺と言ったら高い戦闘能力を持つ要注意妖怪の一人である。 偉大な妖怪である鵺と同一視という言う意味では
謂われ的意味でも最高クラスの賞賛だと思うのだが、なぜか「おまえ、何者だ」と言われた。
通りすがりの商売人だから覚えなくてよいと思う。


朝倉から通信が入って理由がわかった。 どうやら今目の前で涙目になっている女の子こそ 鵺だったようだ。
だいたい正体不明を売りにするというのは色々と無理があると思う。
むしろ正体不明な事象を説明するために「鵺」を使うことができてしまう。 
彼女の存在自体が幻想郷では一種のパラドックスなのだ。
鵺が存在しているからこそ正体不明であるはずの物が説明できてしまうのである。


とりあえず、幻想郷では天狗か鵺の仕業ってことにすれば、そこまで極端に恐怖を感じなくて良い。
はっきりいってメイド長とかデスマシン妹君みたいな具体的恐怖の方が遙かに危険だ。
この回答に女の子もかなり弱った表情をしていた。 
むしろどの辺が正体不明かと尋ねられたので「異性の思考回路は全部正体不明」と答えておいた。


朝倉、岡崎、北白河ほか色々
彼女たちのメンタリティこそまさに正体不明だと思うのだ。
しかし、こうとも言える。 正体不明だから人と接するときに配慮ができるのだろうと。


帰社したらよく無事に戻ってきたと朝倉に言われた。
あとで鵺の戦闘能力についてレクチャーを受けて今更ながらぞっとした。
何も基礎知識もなければなにがどう正体不明かどうかすらわからないものである。