□月 ●日  No1205 適応のかたち


この時期行き倒れというのは希に見ることがあるのだが
妖怪が行き倒れというのはかなり珍しい。
あまりの光景に思わず驚き仰け反ったら、元気を取り戻したらしく
なんとか立ち上がることができたようだ。
顔表情は確かに怖かった。 おかげで彼女の元気が取り戻せたのは
皮肉としか言いようがない。


倒れていた妖怪は幻想郷の中では新参者である多々良小傘である。
幻想郷の一般妖怪と違い顕界に完全に適応した妖怪であるため
幻想郷生活で色々と支障が生じているようだ。


この妖怪は人間の心を食べるタイプの妖怪である。
このタイプの妖怪に鵺がいるが、鵺の場合は社会的混乱を招いて後
人間の心を食べるため大変危険な存在であるのに対し、小傘の場合はとても
ささやかである。
しかしストレスが多い現代人相手のため、それでも十分食べて行けた。
彼女にとって不幸だったのは仲間を求めてやってきた幻想郷が
結局飢えの要因になってしまったことである。


こうした適応は生物の世界でも存在する。
たとえば命蓮寺の連中のような菜食主義者でも生きていけるのは
腸内細菌を総動員してタンパク質を合成してしまうからである。
妖怪達も時がたてば通常の肉食に移行することが可能だ。
それはそれで問題ではあるが、飢えに苦しむよりはマシだし
会社として援助のしようがある。


朝倉にその件を話したら、時が解決するので都度対処と言われた。
あと数ヶ月経過すれば幻想郷の食生活に適応するという。
私にとって意外だったのは妖怪にとっての理想郷じゃなかったのかと言うことだ。
妖怪の適応能力とその問題点の一端を垣間見た日であった。