□月 ●日  No1316 輝夜姫を取り巻くもの


永遠亭に住んでいる姫君が俗に言うかなよ竹のかぐや姫であるという事実は周知の通り。
史実では、一応月に帰ったことになっている彼女だが色々あって戻らなかったというより
戻れなかったというのは有名な話し、


うちの会社にいるとお伽噺の女性にまで直接お会いできるわけなのだが、イメージが瓦解しないで済んでいるのは
まず殆どないと言って良い。かぐや姫もご多分に漏れず。
普段は大体のイメージ通りの姿をしており趣味人のまま悠々自適の生活をしている。
が実際に話をしてみれば彼女が寧ろ女傑としての属性を持っていると思ってよいようだ。


私も最初「姫」というイメージから基本的に彼女は永遠亭にいて、時間の掛かる趣味をして遊んでいるものと思っていたが
最近では実際のところあちこちに出かけて人間の振りして働いてみたりするなど結構アクティブに行動していたようだ。
そうでもしなければ精神を保ちにくいとも言えるだろうが。


会社にいる特権を発動して長年の疑問をぶつけてみる。 なぜ当時の有力者と結婚しなかったかということだ。
いやこれは朝倉の疑問でもあるのだが。
言っておくが、かぐや姫は私の想像を超えるくらい理知的である。
ある意味薬屋よりも遙かに世渡りの仕方を知っているといえる。


難題を出しても結婚しなかった理由はどこにあるのか。 実際のところはかなり複雑な事情があったようである。
まず元々、月から放逐されたかぐや姫としては地上で変に目立つわけにはいかなかったという理由が一つある。
これは月の都に配慮したものだ。 仮に地上の有力者と結びつけば月の都の存在を彼に察知されることに繋がる
同時にとてつもない軍事力がその人物の手に渡ることを意味する。


確かに姫は美しかったが、彼らが本当に欲しかったのはそのバックボーンのオーバーテクノロジだったのではないかという
疑念が常にあったのは否めなかった。 
だからこそ、自分の手元にあるはずの物を探すように難題を出したのだろう。


もう一つ、重要な点は彼女は「永遠」のシンボルだったということだ。
数年で成長し、美しさを維持し続ける姫様を永遠のシンボルとして狙ったり呪術的な利用をもくろむ物が後を絶たなかったという。
彼女の時代は現代と違って呪術が普通にまかり通る時代であり、何か悪いことがあればそれは呪いであると言われ
恐れられていたのである。 
薬屋が彼女を必死に守らなくてはいけないのも当然のことだった。 引きこもらざるを得ないのである。


そう考えると彼女の行動は政治的な視点で考えれば至極合理的であったと言える。
しかし相手は当時の最高有力者であり常に人攫い同然に娶られる可能性はあったはずだ。
それでも彼女が守られていたのは何だかんだ言って、彼女の意志が固いことを常にアピールしていたことにあるのだろう。
案外当時の有力者は彼女の美しさよりは知見に惹かれたのではないかと思うのである。
そうでなければ彼女は疾うの昔に拉致されていただろう。


朝倉にもその辺の話をしたが、結構感慨深そうに成る程ねと言って納得していた。
好きな人なら無理矢理寿命を引き延ばしても良いのだろうけど相手が相手だと言っていた。
今頃になってこんなことを書くのも何だが。彼女については色々な部分でとても興味深い存在と言えるだろう。