□月 ●日  No1315 岡崎夢美の回顧録


この八雲商事に就職して結構経つ。
自分のポジション、収入には大いに満足しているけど
自分が何故ここに至ったのか最近になって判ったような気がする。
私は井の中の蛙だった。


ちゆりから私は丸くなったとよく言われるけど当たり前だ。
私は触れてはいけない物に触れて、それを表に発表しようとしたのだから。
それはすでに既知の物だった。 私の大発見ですらなかった。


今にして思えば同僚の教授から何度か警告を受けていたっけ。
でもあの時は研究に夢中だったから聞き入れる気は起きなかった。
目の前にぶら下がっている真実があるのに追究しないのはおかしいと思っていた。


幻想郷には妖怪の振りをした人間がいる。
厳密に言えば魔法使いも妖怪に近い人間と言えるが、ここの場合は
河童と言うことになっている人間たちのことを指す。
顕界では倫理的な理由や宗教的理由、バイオハザードを起こす可能性のある研究などが
幻想郷に集まっている。


そもそも河童の技術が顕界の技術相当と言われているのは、こうした研究者が
幻想郷には集まっているからだ。河童の個体数ではこれだけの層の厚い研究が
できるわけがない。ここでは、顕界と同様のネットワークにも繋がっている。
天狗たちがそのネットワークにフリーライドしているという話を聞いたことがある。
永遠亭にある端末もこのネットワークを経由しているみたいだ。


なにしろ人間が考えた倫理的制約が妖怪達にはない。
生命科学の分野だと、それがまんま妖怪達の研究に繋がるから顕界より一歩踏み込んだ研究できる。
また、妖怪の能力で感染症を封じ込めることができることから遙かにローコストで研究施設を建造できる。
もうすでに一部の科学者が幻想郷にいたのね。


こんなジョークを思い出した。 
人類の希望を背負ってロケットで人類の住める星にたどり着いたらそこには既に
人類が入植していて、建物が建っていた。
長い時間を掛けて移動している間に、人類は瞬間移動する術を身につけていた。
冬眠していたロケットの乗組員はその事実に気づかなかった。
私はロケットの乗組員だったってわけね。


でも結果的に大学にいるときよりも収入が増えているし
研究も認められているし、あり得ないオーバーテクノロジにも触れているから結果オーライね。
喜んで良いのか悲しんで良いのか。
まあ、いいか。