□月 ●日  No1547 予習してからにしろ


自称現人神からとても狼狽した声で救援要請が来たのは今から一時間前
可能な限りの面子と言うことで戦力担当の浅間とセットで突入もとい
おじゃましたわけだが、中には腰を抜かして倒れ込んでいる大師様と
心配そうに見つめる寅さんと、困った顔で頬を掻いている一輪嬢がいて
コメントに窮する。


一体何が起こったのかと尋ねたら、自称現人神が大師様にお茶を出そうと
照明を付けてこたつのスイッチを投入し、IHヒーターで湯を沸かした。
この一連の動作である。
照明を付けただけでヴァンパイアが光に戦くように大師様の背筋がびくっと
動き、こたつに入った瞬間にばっと外に飛び退いた。そんな具合だ。


とりあえず大師様を落ち着かせてから話を聞いたらとうとう月の技術を
人間が使えるようになるとはと言う話である。
いや、幻想郷にも科学技術は入っているだろうと思ったが、考えてみると
幻想郷の現状に合わせたカモフラージュや、魔法という形で覆い隠している
ものも少なくなく、純粋な科学技術でどうこうという話ではなかったのだった。

これは朝倉の仕業かと大師様は尋ねるが、単に人間が自ら発見したものと
しか言いようがない。 ちなみに朝倉は、飼っていた幽霊が出て行ったショックで
寝込んでおり連絡が取れるわけではない。理由は聞くな。


人間が魔法を使うことができれば大半の妖怪はお役ご免になるというのが
大師様の弁である。いや、それは間違いだと言いたい。
妖怪の多くは科学技術を吸収し別の姿へと進化している。
多々良小傘メカトロニクス妖怪だし、ソーレンは油すましからモータリゼーション化してしまった妖怪だ。 


大師様はしばらく考えた後、面白いことを話したのでここに取り上げておく
今まで妖怪を保護することを考えてきたが、ここにきて保護する必要のない
妖怪の存在を見ることが増えた。むしろ順応した妖怪の方が遙かに強く
結果的に妖怪達の自立を阻害しているのではないかと言うのである。
まあ、母性だけでやっていればいつまで経っても自立しないのは当然だから
それに気づいただけでもめっけものと言うより他はない。


一輪嬢に大師様がうちもこたつが欲しいとか言わないだろうなと尋ねると
多分修行と称して、取り寄せることはないと言っていた。


最後は便器で顔を洗おうとする大師様を全員で止めてエンド。
終わった後は皆でへとへとになっていた。一輪嬢には大師様に外の世界の
科学技術を教えるよう強く要請することになった。