□月 ●日  No1849 極大射程


冴月麟は今まさに博麗神社に銃口を向けていた。
人間ではとうてい不可能な姿勢で、そのままスコープを見ている。
彼女には二つの視点が見えているようだ。ひとつは本来なら測定手が見ている画像。
そしてもう一つはスコープの中の映像だ。
空気の流れを片方の目で読み取り、もう片方の目は目的を確実にとらえている。
彼女は人間ではない。人間じゃないからこのような芸当ができる。


約1キロメートル先から発射される弾丸だ。画面外からやってくる高速弾のごとく回避は不可能だろう。
彼女が狙っている者。それは霧雨のご息女の姿をした管狐だった。
冴月に掛かればどちらが本物でどちらが偽物かどうか位簡単に見分けがつく。


不意に狐が変身を解いた。変身を解いたのは殺気を感じての行動か、それとも命中位置を
変動しての行動か。
標準が一瞬狂ったところに博麗の巫女の腕が管狐の上を遮った。
冴月には無意識に狐を庇っているように見えた。
たぶん実際には違っていたのだろうが。


管狐を射殺するのは難しいと冴月は過去の経験から知っている。
ましてや今回は射殺ではなく生け捕りにしないとならない。


しかし彼らは賢く銃に対する対応能力も高い。
高速移動して多人数の人間を催眠状態に陥れる。
人間を楯にして敵の攻撃を防いでしまう。
ならばなぜ顕界にいないのか? 結論から言えばもっと悪どい人間に利用されたのだ。
傑作な話だがこういう妖怪は往々にして存在する。


面倒な事態になった。管狐は博麗の巫女を言いくるめ寄生の前段階に入った。
利用法によっては博麗の巫女にちょっとしたお灸を据えることも可能だが
周囲を巻き込んで問題を起こすので、そのプランは没とした。
冴月は単独での問題解決を諦めた。 プランBである。


プランB 最近博麗神社に出入りしている自称仙人(あの女を仙人と認める気はさらさら無い。)に
捕まえさせることだ。彼女は加減を知らないから下手をすれば管狐を殺してしまうだろうが
その後に起こる不具合を考えればそちらの方がマシだ。
全ての情報を教えるわけでない。ただ、警告するだけでよい。


期待通り、この自称仙人は管狐を捕獲した。
これで我々の手に二匹の管狐が揃ったわけだが、利用方法についてはおいおい。