□月 ●日  No2266 苦悩


先日ですが、あなた死にすぎと言われました。 最近命の価値が某大陸国家未満になっていたという自覚はありますが
もっと安全なお仕事くださいと強く主張したくなった。
大体移動時間のショートカットのためとか称して「逝って来い」ってやっているのはどこのどいつだと言いたい。
その都度、復活しているのはわかるのだが体に変調が起こっているらしい。
たとえば持病の偏頭痛が治ったとか、特に違うのは胃が痛くなくなったということだ。 最初のころはガストローム
お世話にばかりなっていたが、なくても問題がなくなった。


これにはまず医者がびっくりした。短期間で健康体になったので今までのカルテと何度も見返していた。
医者に心の中で申し訳ないと思ったが、二度も胃カメラを飲まされた挙句、大丈夫と太鼓判を押されたが
胃カメラの診察費用は帰ってこなかった。 まあいいか。


八雲商事にいるとこうして肉体を改造されるケースが多い。
単純に疾患をコピーできないからだと言われたが気分は複雑だ。
まるで自分が自分でなくなるのではないかと錯覚するときがある。


級にお酒を呑みたくなったので、黄昏酒場にひとり繰り出してちびちび呑んでいたら
板前の人に話しかけられ、会社こそぼかしたが色々話す。
すると驚くべき答えが返ってきた。
その板前もまた自分と同じ状態になったのだという。


彼は最初人間を切り裂くために軍隊に入ったが当然のごとくその機会には恵まれなかった。
そんなある日軍隊の訓練である幻想の世界の話を聞かされたのだという。
自分がそこの住民になれば、人を斬れると思った。
しかし、それは適わなかった。 自分が生きていることを確かめるために人を斬りたいとわかったからだ。
自分はあくまで人間でありたかった。
というのである。


少々手遅れだったと 一言添えて。


黄昏酒場には妖怪と縁をもってしまった人間が集まるという。
たしかにここで人間らしくあろうとするのは難しいかもしれない。
しかし、なんとなく自分も人間に踏みとどまりたいと思うようになったことは事実である。