確率なんてクソくらえ‏


最近、我が社はお見合いラッシュである。
先日は明羅女史だったのにつづき、今回は里香女史に白羽の矢があたった。
当てたのは言うまでもなく、うちのボスではあるが。


今回は明羅女史と違って開催まで恐ろしくスムーズに行った。
怖いくらいの順調さで、端から見ているとこんなに簡単に行くものなのかと訝しみたくなるくらいだ。
今回のお見合いは、里香女史独りで行くという。
我が社の中でも何人かいる(*検閲により削除)に差をつけようとしたのだろうか。
もちろん、独りで行くとはいえ、里香女史(の相手)が心配である。
老婆心ながら、結果的に鴉天狗とお見合いを警護することになった。


天気は、快晴。雲一つある青空。
前回空けた障子の隙間から、見守ることにする。
前回の明羅女史の時と同じ庭園の広がる料亭だ。
付添い人のボスの横にまるで七五三か成人式の様に着飾った里香女史が見える。
普段の機械油にまみれた里香女史とは違っていてとても不思議な感じがする。


と、そばにいた鴉天狗がおかしな事を言い出した。
里香女史が誰かと会話しているというのだ。
よく見ると里香女史は髪の隙間からインカムを付けている。
そして、あたりを見回すとノーズが伸びている。
それは、たった一度だけ格納庫で見たことのある戦車に付いている多機能センサーだった。
その戦車は、単騎で戦局を変えるために造られた決戦強襲型戦車で、オゥヴアテクノロジの塊。
戦車の装甲は自ら振動しあらゆる衝撃に耐性をもち、ウェポンラックは換装可能、前面に火力を集中出来るように可変機構までも搭載している。
そして、独自のAI機能をも、持つ。里香女史の切り札戦車である。
なんでそんなものが。
話の内容は、鴉天狗が速筆で書いていた。


「………ですぅ。うん、うん…。」
「先日貴女が遊戯施設で捕獲したコアラ型のぬいぐるみを覚えていますか?
野球というスポーツチームのマスコットキャラクターのものですよ。もう随分前の試合でしょうか、
12回裏二死満塁、バッターボックスには新人。マウンドには疲れているとはいえ、ベテランの投手。もう誰もが諦めたそうですよ。」
「そ、それで?」
「そのチームはその年、日本シリーズに出たそうです。」
「!」
「里香、いくらいきおくれとか出番が少ないとか存在感無いとか影薄いとか、そんな話なんてクソくらえでしょう。ジンクスや確率に左右されず、里香がベストを尽くせばいいんだ。」
「そっか………。」


里香女史の目に力が入る。
そして、一言。
「パーティーやろうですぅ〓」