チーフより先輩らしいビアンでトランスベスタイトな女性社員の日記。

 ブラックだ何だと言われがちな八雲商事だが、理解があるお陰でセクシャルマイノリティにとっては至極働きやすい職場である。トランスベスタイトでビアンの私もカムアウトした上で、男性の制服を着て仕事が出来る、良い職場だと思っている。


 が、幻想郷がセクシャルマイノリティに優しいかと言えば、それはノーだ。
 チーフにあけすけなセクハラを噛まされて腹が立ったので、日記に書き記しておくことにする。


 幻想郷が同性愛に寛容なのは或る意味間違っていない。が、それは妖怪、若しくは肉体の性別=男限定だ。幻想郷の人口が人妖のバランスを取るぎりぎりのラインで推移している現状で、人間の女が女だけと愛し合う生活は許されていない。子供を産まない女は無価値である。
 故に幻想郷の、人間の女性同性愛者は主婦レズばっかりなのだ。コミュニティががっちり出来上がっていて、余所者の入り込む余地はない。それに、主婦レズとは付き合わない事にしてるしね。


 外の世界で同性愛が認められないが為に、幻想郷への亡命を希望する者がいるが、そういう者達にとっても幻想郷は楽園ではない。
 以前どこかの国から死刑を免れる為にビアンカップルが妖怪の伝を辿って幻想郷へ逃げ込んだ事がある。が、人里に移り住んだ二人が受けたのは好奇に満ちた偏見の視線。幻想郷に入る前に或る程度言葉のレクチャーを行ったとは言えスムーズに行かないコミュニケーション、コミュニティは入り込めず、生活習慣にも馴染めず、さりとて故国へ帰る事もままならない。思い詰めた二人が選んだのは、首をくくってあの世で結ばれる道だった。


 幸いにして彼女達は当社の保護観察対象であった為、白玉楼へ旅立つすんでの所で彼女達を現世へ引き留める事が出来た。縄を切って二人を引きずり下ろし、医者に診せて大事がない事を確認すると、スタッフの一人が折角助かった命なんだから粗末にするな、と二人に向かって説教を始めた。
 と、突然二人はおいおいと泣きながら己の窮状を訴えた。


 じゃあどうすればよかったのだ、と。


 二人は結局その後、様々な折衝の末魔界に移住した。
 取引先の魔界関係者から話を聞くには、移り住んだ二人は魔界に溶け込んでうまくやっているとの事であった。


 妖怪と恋愛だって?
 女だからって恋愛して喰われないとは限らないわけよ。解る?