○月 ▼日  No270 アナログへの回帰


外の世界からやってきた人たちはまず携帯電話をかけて通じないことが
判って途方にくれる。これは幻想郷内での無線通信が大きく制限されるからだ。
携帯電話のインフラを整える環境がありながら、幻想郷では電波を飛ばすことに
関してはかなり慎重である。
なぜなら無線のインフラが幻想郷の生態系に多大な影響を及ぼすと考えられているからである。


たとえばミツバチは携帯電話の電磁波で方向感覚が崩れることが知られている。
結果ミツバチが減少し、一部畑ではマイクロマシンを使った受粉を行わないと
いけない事態に直面している。
電磁波問題は結界の外だけのものではないのだ。


さて、幻想郷に物資を届けるうちの会社に入ったばかりの人は
この通信問題で結構面倒なことになる。
曰く彼女と連絡がとれないとか、曰くお金の振込みができないとかだ。
特に知り合いには海外に行っているといっている人は連絡がとれなくて
不審に思われることがしばしばらしい。
こうした状況を見て鴉天狗が我々の社員対象にちょっとした通信サービスを開始した
鴉天狗の通信インフラを間借りして通信代行をするというものだ。


このサービスに多くの社員が群がった。
そして一週間後、誰も利用しなくなった。
鴉天狗の通信インフラは伝言ゲーム、いつの間にか意味が無茶苦茶になりついには
彼女と別れたと等という苦情が
殺到したからである。 新聞がガセネタばかりになるわけだ。
魂魄はこの件について、素直に葉書を使えばいいのだと言う。
葉書は今や絶滅寸前だが、検閲を受ければ幻想郷を突破できる数少ない物質である。
魂魄の書いている風情のある手紙を見た人たちの口コミで少しずつ広まって
今は連絡方法の主流になっている。 
自分の気持ちを手紙で認める行為に社員一同新鮮な気持ちを味わっている。