◇月 ■日  No318 幻想郷における罪人の末路


あたりが朝焼け染まる頃、幻想郷のとある河原で磔になって
事切れる寸前の人間を見つける。 
体中には苦無や手裏剣が刺さっており、そこから少しずつ
血が滴り落ちている。長くは持つまい。
ここから数キロ先に繁華街があることから、おそらくそこで
ひと悶着を起こした者の成れの果てなのだろう。
草葉の陰でルーミアを発見した。 
涎を垂らしながらじっとその人間の行く末を見守っている。
自分が巻き込まれる可能性もあり緊張が走る。


もちろん私は目撃したところで人間にはなにもできない。
これが幻想郷のルールである。
せめて介錯をとも思ったら、何故か里香女史の戦車を見つけた。 
腕が伸びて足が無い戦車が持つものはなんと棺桶だった。
妖怪に食べられる前に回収するため葬儀屋に頼まれて持ってきたという。 


ルーミアは里香女史の姿に気づいて顔面蒼白になっていた。
幻想郷の人間を食べてはいけないからだ。
このルールを破ったとき、八雲一家が報復にやってくると
妖怪の間ではもっぱらの噂だ。
私は磔になった人間が気になりつつもとりあえずルーミア
食べ物をもってくることにした。
戻ったときにはもうその人間は棺桶の中に納まっていて、里香女史は
ルーミアの頭をなでていた。
遺体は、家族の下へと返されやがては荼毘に付されることになるだろう。
もう何度も見た風景だがどうしても慣れない。 
冥界にも顔を出し死というものを身近に感じても駄目だ。


里香女史は「人間だから仕方ない」と笑い飛ばしていた。
もっともその表情には何処か翳りがあるように見えたような気がした。