○月 ×日  No343 七夕哀歌


七夕である。 
天の川によって隔てられた織姫と彦星が会うことができる日である。
夕方過ぎに納品をしていたところ香霖が空を見上げて複雑な表情をしていた。
「知らぬは彦星ばかりなりか」と意味深な言葉を発していた。


帰って魂魄にそのことを話すと、どうやら天の川のエピソードには裏があるらしい。
魂魄に言わせれば、織姫はすごい尻軽女だったというのだ。
織姫はふたりが一年に一度しか会えないことをいいことに、地上に降りてはそこにいる男と
姦淫した挙げ句、一年ごとに捨てるというのを繰り返していたらしい。
ヨーロッパやイスラムなら姦淫の罪で速攻惨殺されてもおかしくない有様だったという。
つまるところ一年に一回しか会えないのは彦星に対する精一杯の配慮だというのである。
それらのエピソードは、今は「天衣無縫」という言葉に残されているとのことだ。


朝倉が背後で酒を飲みながら薄ら笑いを浮かべている。 とりあえず黙殺する。


ボスは「物事には知らない方がいいこともあるのよ」と碁を打ちながらぼやいていた。
北白河は「どうせ男なんてヤレればいいんでしょ」とソファでごろ寝しながら呟いている。
岡崎だけがデスクで無言のままずっと下を見ていた。


うちの部署の女どもの恋愛観がかいま見えた瞬間であった。