○月 △日  No351 逝こうよ楽しい新聞の世界


天狗の印刷所にペーパーセメントを納品しに行く。
印刷所はまだDTP化が遅れていて、未だに写植が幅をきかせている状態だ。
もっとも出版物は概ね速報性なんて重視されていないのでそれで困ることはない。


印刷所に着いたら足下に注意しないといけない。
寝袋でくるまっている鴉天狗が歯ぎしりをしながら死体のように寝ころんでる。
以前間違ってけっ飛ばしたら、半殺しに遭うのではないかというような
物凄い殺気が漂ったことがあった。
あのときは本当に殺されると思ったものだ。


周囲はまるで人外魔境のような雰囲気である。
美少女で名を馳せた鴉天狗も荒れた肌と疲れ切った表情が隠せない。
そこに木魂する怒号。 鴉天狗のひとりが原責を落としたらしい。
原責とは、締め切りまでの余裕がない記事のことである。
つまりこれを落とすと地獄が待っているのだ。


受取人のはずの山伏天狗は、椅子の上で寝ていた。
椅子を三つドッキングしたやつで、業界用語で「イス寝」と言うそうだ。
間違っても真似したくない。
判子をもらうため体を揺さぶりどうにか半起き状態にまでもっていく。


帰りがけどこかで見たことのある鴉天狗が上司であろう山伏天狗に連れられて
印刷所のある方向へと消え去っていった。
出版業界の大変さは外の世界も幻想郷もかわらないのだと感じ入る日であった。