○月 △日  No352 お供え物と込められた想い


八百万の神様にお供えする芋に我々の世界の芋が混ざってしまった。
スタッフ騒然、里香女史の顔は真っ青になっている。
検疫部のミスですめば良いが、八百万の神の機嫌を損ねて幻想郷の
食料自給が損なわれてしまう可能性もある。


幻想郷の野菜は我々が知るものとは大きく異なる。
これは我々が知らず知らずのうちに様々な薬剤を使用しているためである。
人体に有害無害に関わらず、野菜や作物をつくるときにはなくてはならないものだ。
たとえば、害虫を殺す薬剤からはじまり、実の肥大化を促進するための
ホルモン剤なんてものもある。


幻想郷では普段食べられない天然の食べ物を食すことができる。
本場のシメジが食べられるのは幻想郷ならではだ。
だが天然で無農薬だからと言って無条件で美味いかと言われると微妙である。
甘藷ことサツマイモは幻想郷と我々の世界では味が全然違う。
我々が知る甘くておいしいサツマイモは「ベニアズマ」と呼ばれる品種である。
人間の努力が生み出した野菜や果物はまたそれは格別の味だと思う。


どうにかしてすり替えようとしたが、一足遅く芋は神様の口に入ってしまった。
八百万の神様は表情を変えることなく、いつもの調子だった。
朝倉に何故、様子が変わらなかったのかと聞いたら、「味が変わっていたのは
わかっていたけどそこに込められていた作物への念は変わらなかったから」だと
言っていた。
どうやら私も里香女史も浅はかだったようである。


説明する朝倉の後ろにいるボスがニヤニヤ笑っていた。