○月 △日  No376 日頃の行い


鴉天狗曰く、ここ数日間鉄の牛が幻想郷に出没するらしい。
おそらく乗用車が幻想郷に迷い込んだのであろう。
通常幻想郷に乗用車が走ることは殆ど無いので
妖怪たちも住民たちも興味津々である。


通常、乗用車が走る状態で幻想郷に入ることはきわめて希である。
地脈の関係でトンネルの出口や、山道の間などで神隠しに遭うことは
よくあるのだが、大体の場合、実体化先が雑木林の中なので
そのまま樹木に衝突して走行不能になるからである。


朝倉に言わせると少し昔の幻想郷では鉄の牛の中には餌があると
言われたらしい。
おそらく衝突安全ボディが普及していない当時の車は木に激突すると
運転手が命を落とすケースが多いからだろう。


こういったケースでは博麗の巫女が乗り出す前に内々
で処理しないといけないことになっている。
さすがに乗用車相手に弾幕を放つのはいろいろな意味で危ないのだ。
IRシステムと鴉天狗の情報網を駆使して、ぬかるみに嵌り動けなくなった
乗用車をみつけたのはその日の夕方だった。
幻想郷には一部地域を除き舗装された道路が存在しないのだから当然である。


里香女史の戦車に乗用車を運ばせるのは問題ない。
大変なのは中の人に事情を説明することである。
妖怪たちの話をしたり捕食される話をしたりしても、大体の場合は
きちんと受け止めてもらえない。
酷いケースでは賠償金を払えと騒ぐ人もいる。


この日のケースでは車の中に室内犬を連れてきていた。
妖怪の山のドックに連れて行ったらたちまち種族を超えてアイドルになった。
飼い主である車の持ち主もこの展開には悪い気がしないようである。
なんという親ばか。


鴉天狗は室内犬にいろいろ話しかけている。言葉がわかるのか
いろいろとメモした後、元の世界に返すべきだということになった。
問題は乗用車だ。さすがに博麗神社まで乗用車を走らせるのはまずいので
いろいろと書類を書いて別々に送り届けることになってしまった。


鴉天狗は「日頃の行いは大切だ」と言うが
お前が言うことかと思わず突っ込みたくなってしまった。