■月 ○日  No415 教育と実践の隙間


うちの会社の社員教育はもっぱらOJTである。
これは講義のような形での教育は幻想郷の世界の前には
全く意味をなさないからである。


もちろん幻想郷の概要や基本的ルールは最初に話を受けるのだが
まるで外国の案内を見ているようで、あまりピンと来ない。
だから私のようなある程度中堅どころの社員が一緒に配達作業を手伝ったり
することで教育をすることが必要となる。
これは自分自身の勉強も兼ねているわけで、なるほどよくできたシステムだ。


新入社員に必ず教えないといけないことは言葉遣いである。
基本的にお客様となる妖怪たちは我々より長く生きている。
すなわち目上の存在だ。 日記でこそため口でかかれているが
香霖でさえでも敬語を使う   時もある。


しかしこれが上白沢や白玉楼のお嬢様となれば事情はかなり異なってくる。
応対次第では確実に命を落とすからだ。


そんな新入社員のお守りをしていたら、綺麗なひとを見つけたと騒いでいる。
彼女は妖怪でしょうかと言われた先には隙間妖怪の姿がいた。
一気に血の気が引いて顔面蒼白になっている私を無視して隙間妖怪に質問する新入社員。 
こっちは俺の顔色を見ろ 空気読めと心の中で絶叫しているが口に出てこない。


「綺麗なおねえさん」という言葉に気分を良くしたのか上機嫌で隙間妖怪は喋る喋る。
やりとりが終わって、「こんなに綺麗な人がいるなら幻想郷もなかなかいいですね」という
新入社員を草履でひっぱたいた。


彼女の正体があの隙間妖怪だと知ったときの新入社員の表情は忘れない。
帰りは会話もなく乾いた笑いをずっとずっと続けていた。