■月 ○日  No414 幻想郷の切り花


風見女史のところへ行き切り花を受け取る。
彼女の好意で幻想郷のお彼岸やお盆で使う花は、自給率ほぼ100%である。
結界の外から運ぶことも不可能ではないが、運んでいる間にしおれてしまうことが
多く輸送が難しいという事情もある。
結界がもっとスムーズに突破できれば問題はないのだろうが、
橙とかに結界突破承認権限を与えたらどうだと言ったら
「そこまで知能がない」と言われた。 ここまでダイレクトにいう事だろうか。


大きなバケツの中に水をなみなみそそいで、その中に幻想郷では高価な
砂糖を投入する。 これは、結界の外で売っている保存剤の代用である。
そこに切り花を入れて、列車で一気に運ぶ。 移動時間の間に水を吸わせる算段である。


一晩かかって霧雨店に納入 その後店員さんと一緒に茎を鋏で
ちょきちょきと斜めに切る。 このときはうちの職員も駆り出されて
一気に仕上げる。 これも切り花の延命のためである。


時たま風見女史が様子を見に来る。
切り花のコンディションを見て、色々なアドバイスをしてくれる。 
霧雨店の店員はそれを詳細にメモしている。
たまに怒号も飛ぶが、真剣な店員さんの態度を見るなりすぐに機嫌を直す。
彼女の素性を知っているこちらとしては冷や冷やもののやりとりだ。


店員がバケツの中に外の世界の十円玉を投げ入れているのを見てびっくりした。
十円玉は殺菌作用の強い銅でできており、水にウイルスが繁殖するのを
抑える働きがあるらしい。 幻想の世界に行ったお金がこんなころで
お目にかかるのはとても興味深い話である。


お店に並ぶときは職員はへとへとだが霧雨店の店員はそこから商品を販売しないと
いけないのだから恐れ入る。
かくしてお彼岸の幻想郷に花が満ちあふれるのだ。
切り花ひとつとっても大きな手間がかかることを知っておいて損はない。