生まれて初めて妖精たちの親玉を目撃する。
ほんの一瞬、自称現人神にも見えたが体格もなにより等身が違いすぎる。
普通の妖精と根本的に違うのは"話が通じる"このことにつきる。
それなりに世間智も持ち合わせており、流石は妖精たちのまとめ役である。
妖精曰く、最近妖怪の山で道に迷う仲間が後を絶たないらしい。
山の中腹に戻るための目印を置いても、目印そのものがなくなってしまって
どうしようもないという。
河童や天狗の仕業とも考えられたので、白狼天狗にそのことを聞いたら
「私はそんなに暇じゃない」と言われてしまった。
彼女の口ぶりからちょっとした心当たりはありそうだが、「暇そう」という
言葉のせいでもったいぶって教えてくれない。 どうやらへそを曲げたらしい。
今後NGワードとしておこう。
かくなる上はきちんと確かめるのが一番と考え、外出許可を申請したら
リュックサックとコンパスを与えられた。 中にはお菓子が満載されていたが
そのどれもがエネルギーを手っ取り早く得るための食料だった。
近所を歩くのに遭難の危険があるという意味である。
妖精がいる手前GPSをおおっぴらに使うことができないので
地図とコンパスを頼りに山の中を散策する。
するとすぐに地図に矛盾が発生した。 さては鴉天狗が手抜き地図をつくったのか。
もう少し歩くと同じ場所をぐるぐる回っている事に気づく。
山道を馬鹿にした罰である。完全に道に迷った。
数時間経って鴉天狗に見つかったときは少し涙目になっていた。
道に迷った理由を鴉天狗に尋ねると、微妙ではあるが妖怪の山は物理的に動いているらしい。
自力で移動できない八百万のカミ様のため、山を水平方向に回転させるそうだ。
誠に迷惑な話である。
私は妖怪の山を庭のように思っていたが、この場所も思った以上に奥が深いと
いうことだ。 自らの知識を過信しないこと、これが今日の教訓のように思う。