■月 ○日  No432 妖怪の山の恐怖


生まれて初めて妖精たちの親玉を目撃する。
ほんの一瞬、自称現人神にも見えたが体格もなにより等身が違いすぎる。
普通の妖精と根本的に違うのは"話が通じる"このことにつきる。
それなりに世間智も持ち合わせており、流石は妖精たちのまとめ役である。


妖精曰く、最近妖怪の山で道に迷う仲間が後を絶たないらしい。
山の中腹に戻るための目印を置いても、目印そのものがなくなってしまって
どうしようもないという。


河童や天狗の仕業とも考えられたので、白狼天狗にそのことを聞いたら
「私はそんなに暇じゃない」と言われてしまった。
彼女の口ぶりからちょっとした心当たりはありそうだが、「暇そう」という
言葉のせいでもったいぶって教えてくれない。 どうやらへそを曲げたらしい。
今後NGワードとしておこう。


かくなる上はきちんと確かめるのが一番と考え、外出許可を申請したら
リュックサックとコンパスを与えられた。 中にはお菓子が満載されていたが
そのどれもがエネルギーを手っ取り早く得るための食料だった。
近所を歩くのに遭難の危険があるという意味である。


妖精がいる手前GPSをおおっぴらに使うことができないので
地図とコンパスを頼りに山の中を散策する。
するとすぐに地図に矛盾が発生した。 さては鴉天狗が手抜き地図をつくったのか。
もう少し歩くと同じ場所をぐるぐる回っている事に気づく。
山道を馬鹿にした罰である。完全に道に迷った。


数時間経って鴉天狗に見つかったときは少し涙目になっていた。
道に迷った理由を鴉天狗に尋ねると、微妙ではあるが妖怪の山は物理的に動いているらしい。
自力で移動できない八百万のカミ様のため、山を水平方向に回転させるそうだ。
誠に迷惑な話である。 


私は妖怪の山を庭のように思っていたが、この場所も思った以上に奥が深いと
いうことだ。 自らの知識を過信しないこと、これが今日の教訓のように思う。