■月 ○日  No450 特別な人間なんていない


私の不注意のせいだろう。自称現人神に私が結界の外にいる人間だということを
感づかれてしまったようだ。 これまでは色々と現地の人の振りをして誤魔化してきたが
そろそろ限界のようである。


元の世界に帰る方法を聞かれると思ったら、私が特別な人間なのかと聞かれてしまった。
そんな訳がないと答えたら、今一釈然としていない様子であった。
そもそも幻想郷に物品を届けている人は私一人だけではない。
あまりに日記には書かないが同僚だっているし、私以外の人間も自称現人神に会っている。
殉職すれすれになったのだって何人かいる。
また、業務を支える現地スタッフだってかなりの数がいる。
私のやっていることは所謂営業職に近いものがあると思う。


彼女の疑問はよくわかる。 
幻想の力を行使する人間がしばしば孤立しやすいことも経験則で知っている。
でも個人的には自分が特別な人間だとは思わない。 いざとなったら自分の代わりは
いくらでもいるし、組織とはそうあるべきだと思っている。
すなわち特別じゃなくても幻想郷に行けるのだ。 私は幻想郷に縁があれば
そこへ行くことはそう難しくないと思っている。 


さて、そんなことを聞いてきた自称現人神は、信仰を手っ取り早く稼ぐために
我々が運ぶ物品の注文窓口になりたいと申し出た。 
注文窓口と言えば香霖堂があるが、妖怪の山から香霖堂までの
のりを考えれば、この神社を窓口にするほうがよいと言う。
私には決定権がない旨を伝えて、とりあえず提案書を提出することにした。


朝倉は面白いアイデアだと言って褒めてくれたがボスは少々難しい顔をしていた。
「保険にそこまでやらせるのはどうか」とだけ呟いていた。
どうやら神社の移転にはなにか複雑な事情が見え隠れしているようである。