△月 □日  No460 幻想郷の商慣習


幻想郷のお店は我々が住む世界と大きく違う。
まず気がつくのは値札がついていることが少ないということだ。
価格は交渉によって決める。 これは香霖堂でも同様である。


まず商品の品質が安定しない。 工場制手工業によって作られる様々な商品は
手にとってよく見ないといけない。
同じ商品でもできあがりの品質で値段が変わるのはざらというわけだ。
PL法の概念を香霖に説明したら、そんなことをしたらお店がつぶれてしまうと
言っていた。 確かにそうかも知れない。


うちで先日納品した商品にリコールがかかっていた。 暖房器具の類なのだが
ごく希に発火するおそれがあるという。
この場合非常にややこしいことになる。 
幻想郷から品々を結界の外に持ち出せないため、同様の商品へと
交換することになるのだ。 もちろんすでに出荷した分は丸損である。


ところが幻想郷の住民にリコールの概念を説明するのは至難の業だ。
そもそも彼らに同じ品質の商品がたくさんあると言うことを理解してもらえない。
彼らは自分できちんと選んだという自負がある。


結界の外では「リコールをします」で済むのだが、幻想郷では同等品への
交換を持ちだしても「今のもので満足している」と言われたり、
果ては「八百万のカミ様に失礼で罰当たり」と言われたりすることもある。
会社の事情をわかっている霧雨店なら話は早いのだが、直接配達したところはそうはいかない。 
今日は「問題のあるものを売ったのが悪い」と言われて水をかけられてしまった。
それでも根気よく商品を交換しないといけない。


見かねた河童たちが返品交換の手伝いをしてくれた。
服がびしょ濡れになったがなんとか終わってくれたのは何よりである。
さて、回収した商品はどうなっているのかって話なのだが
噂によると隙間妖怪が投棄用の隙間をつくっているという。
そんなことをするのなら素直に列車で戻せば良いと思うのだが、
それはできないらしい。


幻想郷とはとても難儀な世界なのである。