△月 □日  No478 絶望的所得格差


香霖堂で三ヶ月に一回の棚卸しを行う。
香霖が勝手に色々と拾ってくるので、在庫元帳には訳の分からないものが
どんどん追加されている。本人の能力により商品の名前は分かるので収拾がつかなく
なることはないのだが、あまりにひどいので商品タグをつくって
一商品一管理方式にしてみた。 これでロストする商品が減るはずである。


香霖堂の棚卸しは一種の発掘作業である。 これまでも何度か棚卸しを
手伝っているのだがとても一人で終わるものではない。
たまにやってくる妖怪たちも事態を深刻にする。
黒いのとか赤いのとかは在庫違算クリエイターである。
結果もちろん私の怒りもクリエイトされる。


だがこの発掘作業こそが香霖堂における棚卸しの醍醐味なのだ。
北白河も発掘作業が楽しみで香霖堂に手伝いへ行っている。
香霖堂は一種のおもちゃ箱みたいなところなのだ。


箱の中を色々とまさぐってみると、カセットレコーダーや昔流行った色々な
グッズが発掘される。 ゲームウォッチの類を見つけたときは、ポケットマネーで
すぐに確保したが、電池のふたを開けたら液漏れをしていて使えなかった。 


商品掃除がてら在庫の突き合わせをしていると、延々と商品を眺めては
次々と価格交渉を始める女が一人。私服の小兎姫だった。
そういえば彼女は変な物蒐集家で社内でも有名だったことを思い出した。
この日買った物は笑い袋とかいう手で握ると笑い声が聞こえる代物など数点である。


小兎姫にいくらで買ったのかと聞いたらうちの会社から支給される
一週間分の生活費くらいであった。 羽振りが良すぎる。
一体お役所からいくらお金が入っているんだと聞いたら、
私の給料の4倍だった。泣きたくなってくる。 
彼女と結婚する男は大変そうである。


滞留在庫の拾い出しと不明在庫のリストアップを終わらせ
朝倉に報告がてら給料の差を話したら、足りない分は"私で"払うと言ってきた。
ギラギラしている朝倉の目を見て私は「お断りします」としか言えなかった。