△月 □日  No490 精神的充足


今日中間管理職狐が会社を訪ねてきた。
月へ遠足に行くための新作油揚げの試食に来たのである。
一口食べた中間管理職狐は多くの妖怪の反応と同じく
そのしょっぱさにかなり顔をしかめていた。


最近中間管理職狐が、月に行けば楽して暮らせる技術が得られるとあちこちに
触れ回っているという噂を耳にしている。
河童や天狗達が扱う技術は所詮外の世界の技術の模倣であり、精神的な充足とは
ほど遠いという。 私に言わせれば莫迦げた話だと思う。


私は今やっている仕事を楽しいと思っているが、それも精神的充足では
ないだろうかと思うのだ。 中間管理職狐の話はまるで、自分の生き方を
完全に否定するようでどうも聞き捨てならなかったのだ。


そこのところを直接中間管理職狐に聞いてみた。 
要点はこうだ。 金持ち喧嘩せず、衣食足りて礼節を知ると言ったとおり、
目の前の生活の安定が図られなければ人間も妖怪も容易に餓鬼道に墜ちてしまう。
月の魔力を使って安定した生活ができれば、もっと平和になるだろうというのだ。
もちろん、衣食住がきちんと整備されたとしても、精神的な充足は
最終的には個人の資質による物が大きく、どんなに刺激的ですばらしい
物が目の前にあってもそれを楽しむ気がなければ意味を成さないという。


中間管理職狐が帰ったのを見計らってか朝倉が興味深いことを話してくれた。
「月の技術で精神的に充足できるなら戦争なんて起こるわけがない」と言うのである。
精神的に充足していれば覇権争いなんてする必要はないわけだ。
充足とはよく言ったものだと言って笑っていた。


良くも悪くも、中間管理職狐は隙間妖怪にとってすればコマに過ぎないのだろう。
ボスは隙間妖怪の悪企みについては静観の構えを維持すると言っていた。
しかし静観はするが準備はするという。
すでに岡崎や玄爺たちが行動を開始しているそうだ。



おつまみの材料集めだが。