□月 ○日  No503 幻想の更新作用


朝倉は科学者である。 と言ってもうちの会社にいる殆どの人間はその事実を
完全に忘れている。 私を含め会社の面子はおおむね魔法使いと思っている。
そのことを彼女は面白く思っていない。


妖怪の住まう幻想郷を目の当たりにすると、それらを科学で切り込むことは
とても無粋な行動にも感じられる。 幻想の世界に科学を持ち込んでいいのかどうか
朝倉に質問をぶつけてみると不思議な答えが返ってきた。


彼女に言わせると認識宇宙が広がればそれに従って幻想の部分も広がっていくと
言うのである。 科学の力で人間の認識力は大いに向上した。 
広い世界も小さな世界も少しずつ観測できるようになっている。
だが観測すればするほど、新しいブラックボックスが現われてしまう。
それは人間の探求心が続く限りそれは延々と続き、果てしなく終わりはないというのだ。
結果的にそれは幻想の世界に変質をもたらすことはあっても、無くすことはできず
むしろ幻想の世界を強化する結果をもたらすこともあるという。


たとえば宇宙人は、我々が地球を認識し出してから初めて認識することができる存在だ。
それまでは未開の地に住む生物かもしれないなどと、想像の範囲は限られていたわけだから
結局のところ幻想の世界は消滅することはなくただ単に意味合いが変わっただけだ。
だが、宇宙人という存在はひとつの謂われとして存在することになる
今まで得体の知れない生命体が宇宙人という属性を得て存在を強化する。
そういう理屈らしい。


こうした幻想の世界のアップデートとも呼ばれる現象は幻想郷のあちこちで
発生しているという。 謂われの変化により妖怪たちに追加属性が加えられて
妖怪たちの力関係が逆転するという現象も起こっている。
妖怪たちが突然巨乳になったり萌え属性が加わったりするのもそれらの作用によるものだ。


男にモテモテになる属性とか、眼鏡ブーム属性とかも加わってほしいものだと
朝倉はひとりため息をついていたが、どうやら幻想の属性というものは
彼女の力をもってしてもどうにかできるものではないらしい。
もし、朝倉の思い通りに属性付与ができればいろいろな意味で恐ろしいことになりそうだ。
この世の中は本当に良くできていると思う。