□月 ○日  No544 危険な荷物


うちの会社は幻想郷に物資を運んでいるが、ごく希に危ない荷物を運ばされる時がある。
この日借金取り天狗が遊びに来た。こいつらがやってくるとたいていまともな事にならない。
普段は世話話をしながら無料のコーヒーをしこたま飲んでくつろいでいる奴だが
今日は純粋にビジネスでやってきたらしい。


依頼内容は集荷だったが、問題はその中身である。
天狗から渡された写真は妙齢の妖怪であった。こいつを幻想郷に送りつけて欲しいらしい。
冴月が持つ幻想郷へ妖怪を強制送還する銃が隙間妖怪冬眠で使用できないため
こちらに話が振られてきたようだ。
なんでもこの妖怪は人間を身請けして養子縁組をしたあとで、その人間名義で借金をして
お金を巻き上げているというとんでもない奴だという。
もちろんこの妖怪の戸籍は金で買った偽物なのだが、幻想郷の外ではこの妖怪を裁くのに
限界があるらしい。 


こういうことは小兎姫の仕事なので断ろうとしたら、天狗達は自分の商売はお上と
馴れ合えないとぼやいていた。難儀な話だ。
幻想郷に送ることで妖怪の力が増すのではないかと思えたが、この妖怪にとっては金の力こそが
幻想の力であり、幻想郷に飛ばされることで彼を支える力が消失するらしい。
人間の世界に適応しすぎた妖怪はもはや人間と特性すら似てしまうようだ。
結局ボスの肝いりで介入する羽目になってしまった。


捕獲の方法はとても古典的だった。 妖怪に通じるのかと思ったがあっさり通じて拍子抜けした。
一人で帰宅する妖怪を強引に車に乗せて拉致してしまうのだ。
もしこれが幻想郷の妖怪なら車を破壊して脱出するのだが、この妖怪にはもはやそんな力は
残されていない。 妖怪は借金取り天狗に引き取られ列車で幻想郷ゆきとなってしまった。


この妖怪がどうなったかそれは分からない。 朝倉は幻想郷ですぐにスペルカードによる
決闘を仕掛けて私刑にするつもりだろうと言っていた。 
結果的に妖怪殺しの片棒を担いだことになる。 相手は悪党だろうがかなり気分は悪い。
魂魄は、その妖怪にとっては今いる顕界こそが幻想郷だったのだろうと述べていた。
幻想郷と我々の世界は鏡のように裏腹の世界なのだと感じ入る一日だった。