□月 ★日  No559 我々は負けたのではない勝ち取ったのだ


浅間が手作りチョコレートの材料を買い込んでる。
そろそろバレンタインの季節だと感じ入る。
お湯を沸かして湯煎をするのかと思いきや用意したのは電磁調理器とステンレスボウル。
調理器を弱火にして、ボウルの上でチョコレート片をくるくる回すとみるみる溶けていく。
お湯を沸かすより手軽で簡単にチョコレートを調理できるようだ。
誰にあげるのかと聞いたら、ビール一ダースくれる人にあげると言われて涙が出た。


うちの会社の連中ときたらバレンタインにやたらドライである。
昨年はボスから配られた義理チョコだった、朝倉や北白河は面倒なのかどうか知らないが
そういうものは配らないらしい。
魂魄は本命一転集中型と言っていたが、要するに我々は箸にも棒にもかからないらしい。


代わりにせっせとチョコレートを作っているのはヴィヴィットとルーコト達である。
本人はバレンタインという風習を学習したいだけらしい。
彼女たちからチョコレートを貰えば地の果てまで虚しくなること請け合いだ。


里香女史はどうか、フレッシュな新入社員の顔写真一枚でチロルチョコ一個と交換らしい。
絶対どこか間違っていると思う。
冴月は「チョコレートと鉛弾は似ている」と言っている。心を撃ち抜くものであるらしい。
彼女らしい発言だが、だからと言ってくれるわけではない。
明羅女史は妖怪たちの口に入ったら中毒症状が怖いと言って義理チョコも配らないらしい。
阿礼乙女の話では代わりにあんころ餅を作ってくれるそうだ。


魂魄が本命チョコが欲しいとこぼした。
横からぬっと現われた玄爺が無言で頷いている。
思わず連帯感が生まれる瞬間である。


三人で黄昏れていたら朝倉が俺たちにチョコをくれた。
かなり手のかかったチョコだったのでびっくりした。
「だんだん可哀想になってきた」と言われようともチョコはチョコである。
実は浅間が作ったチョコだとわかってもチョコはチョコである。
箱の中に欲しい物が書いてあってもチョコはチョコである。




一応欲しい物については朝倉が冗談と言ってくれたのでよしとする。