□月 ★日  No578 義務と権利


今年も新卒入社の季節がやって来た。 朝倉と里香女史が必死なのはいつものことだが
浅間もやや必死である。 お酒が飲めるかどうかをしきりに気にしている。


相手が妖怪だろうが人間だろうが頭を悩ませるのは人間もしくは妖怪関係である。
会社組織である以上は一定の秩序が保たれていることが重要になるのだが
朝倉に言わせるとこと最近入社した人は、私を含めて頭である程度納得しないと
仕事を拒否する傾向があるらしい。


朝倉もボスも私に口を酸っぱくして言うことは、「義務を果たしてから権利を主張しろ」ということである。
納得して仕事をする以前に、与えられた仕事はこなすのが義務だということだ。
よく会社がダメだから自分のプランが採用されないという人がいるが、たいてい義務を果たしていない
ケースがほとんどである。


仕事をする上で、重要なことはかならず仕事は一人ではできないということである。
ひとりでこなしたつもりになっても様々な支援があってこそ可能であることを忘れてはいけない。
私が少女の姿であっても閻魔様と会話ができるのは結局組織に属しているからだ。
仕事をしているからこそ、重要人物と会話できるというわけだ。


新しいことをやる時は、きちんと仕事をした上で提案しないとどんなに素晴らしいプランであっても理解して
もらうことはできない。
どんなに素晴らしいものを作る技術を持っていても、それが世に出なければ意味がない。
世に出るかどうかを決めるのは自分ではない。 市場でもない。
まずさしあたって経営陣を動かさないといけない。
その時、後ろから後押ししてくれる人を探すことが必要だと言われている。
プランが動くときは必ず理解者が必要だ。 普段からそうした理解者の信頼を勝ち取ってさえいれば
いざとなったときは助けてくれる。


朝倉が私の上司になったときに言ってくれた言葉がある。
「私の指示に従っている限り、私はあなたのよき理解者として振舞う」というものだ。
これが妖怪が人間と交わす契約の一部であることに気づくまでは時間がかからなかった。


だから私はそれが一見理不尽な仕事であっても、意味のない仕事ではないと考えて仕事をしている。
ただしイエスマンとは違う。 これは一種の思考停止状態である。 
犯罪行為に加担しろという命令だったらそれは会社のためにも世間のためにも拒否するべきだろう。


幻想の世界で仕事をするときは、妖怪たちは基本的に目上の人間として扱うべきである。
彼らは少なくても私よりもはるかに長い時間生きている。
ブレザー兎に至っては学生服を着ているのに私より年上らしい。
見た目と年齢は全く当てにならないということだ。


朝倉は妖怪とのコネは一生分の宝になると言っていた。
自分よりも長い時間を生きる妖怪たちはいつまでたっても同じ姿のまま、その信頼関係を守り続けるからだ。
最近別の妖怪に襲われかかった時も、メトセラ娘がかけつけて退治してくれた。
もし信頼関係がなかったら私はこの世にいないだろう。
人間でも妖怪でもお互いの縁を大切に生きていきたいと考えている。