□月 ★日  No577 残された人たち


世の中には物好きがいるもので、幻想郷へ行きたいという困った人がいる。
普通なら頼まれたって行くべきこところではない。 美しい妖怪少女目当てだとしても
今いる人生を棒に振るくらいの覚悟が必要だ。
今日はそんな幻想郷に行ってしまった人ではなく残された人の話。


借金取りの天狗の痛い痛いお話を聞かせてもらった。


私のように出張扱いで幻想郷に行っている人以外は行方不明扱いになる。
あまりに長期間幻想郷にいると、外の世界では死亡扱いになってありとあらゆる社会保障が吹っ飛ぶ。
ただこれも法的には結構柔軟に対応できるらしく、死亡扱いになったあとに幻想郷から首尾よく
脱出した人が社会復帰できている例もある。


年老いて幻想郷で暮らせなくなったので元の世界に戻りたいという困った人もいる。
気持はわからなくもない。 死ぬ前に一度故郷の地を踏みたいと思うのはだれしも思うことだろう。
この前妖怪たちをかいくぐり博麗神社を突破して、自力で幻想郷を脱出したじいさんがいた。


このじいさん20年間も幻想郷にいたものだから、当然死んだことになっている。
そこでじいさん、警察署に行って自分の身元照会を始めた。 当然のことながらそのことは肉親に伝えられて
以下阿鼻叫喚のるつぼが始まった。


まず、このじいさんを誰が引き取るかで騒ぎになった。
20年間も蒸発しておきながら、一緒に暮らしたいと言われて誰が暮らしたいと考えるのか。
現代の情勢もわからないから、さらにひどいことになっている。
認知症を疑っても、検査をすれば正常でなおさら周囲を困惑させた。


だが、真の恐怖は保険屋からの死亡保険金請求である。
死んだはずの人が生き返ったわけだから、保険屋としては当然死亡保険金を返してもらわないといけない
と、いうわけで莫大な金額の請求がその家に降りかかった。
年金やら未払いの税金の請求もやってきた。 確実にその家庭は破産である。


御役所は私たちより性質が悪いというのが天狗の弁である。
請求された家族誰もが思ったはずだ。もう一回蒸発してくれと。
この話を聞いたら、本気で幻想郷行きをコンサルタントしたくなってくる。


結局このじいさんはいたたまれなくなって家を出たそうだ。
その後どうなったのかはわからないが、もしかするとまた幻想郷に戻って暮らし始めたかもしれない。
ただし再蒸発しても、物事は解決しない。
また死亡通知がくるまではまた長い時間がかかり、保険屋からの返還請求は止まらない。
結局この家庭は、どこかの法律屋にテクニックを仕込まれて最悪の事態は免れたらしいが、それにしても
残された人はいい迷惑である。


このように幻想郷に行く場合は二度と帰らない覚悟をした上で、実行されたい。
例の神社の件で借金とり天狗たちと打ち合わせをするのはもう嫌だ。