□月 ★日  No576 月兎の能力とEMP


霊能局の連中と雑談。小兎姫が妖怪たちに余計なことをしてほしくないと漏らしていた。
彼女がもっとも警戒しているのは人間世界に対する報復らしい。
彼女が月の脅威について興味深いことを話してくれた。


人間が月へ観測しに行っている間に月から妨害活動と思われる不自然な現象が起こっていたらしい。
電子部品の一部が焼き切れて使い物にならなくなったというのだ。
結果、月の観測計画はかなりの遅れが出たらしい。
横で聞いていた朝倉が「EMPだ」と言ったら小兎姫が明らかに不機嫌な表情になった。


EMPすなわち電磁パルスというのは、電子回路を焼き切ってしまう電磁波のことだ。
月兎の一部には物事に宿る波長を操る能力の一環としてEMPを扱えるものがいるらしい。
EMPの恐ろしさは殺傷力こそないがインフラを破壊することにある。
小兎姫の話では月の観測装置もEMPによって満足な働きをすることができなかった。
途中でコントロール不能になって自爆することも多かったらしい。


そんなEMPがここで使われたら、この現代において至る所にある電子回路が使用不能になり、
世界は大混乱となる。
米帝で停電騒ぎになった時は町中がパニックになり、略奪や暴動が起こったことが知られている。


もちろん月兎が利用できるEMPの有効範囲はあまり大きくできないらしいが
それでも現代のハイテク兵器や遠隔兵器では月兎に満足に戦うことはできないだろう。
朝倉は月兎は自分のEMPで銃が故障するのを防ぐために、電子装備を廃した
銃火器を使っていると言っていた。


EMP対策は莫大な予算をかけて水面下で行われているらしい。
通信回線の光化もその一つだそうだ。 
高高度の核爆発でも同じことができるので、その名目でEMP対策を早急に進めているらしいが
あまり進んでいないのも事実のようだ。


小兎姫は「そこまで分かっているなら、なぜ妖怪たちが月に攻め入ることを止めないんだ」と憤っていた。
朝倉は「月に行くことで問題が起こるなら、薬屋がとっくに阻止している」と返した。
「むしろ知らぬ存ぜぬで通した方が都合がいい」 とも付け加えていた。
小兎姫はしばし思案して明るい声で「なるほど」と言うとそのまま帰ってしまった。


彼女が一体何を考えているのかは理解しがたいが、ひと波乱ありそうな雰囲気である。