□月 ★日  No575 アイス争奪戦


レティホワイトロックと言えば、幻想郷で有名な冬妖怪である。
氷妖精であるチルノとの同一性を指摘されるが、異常冷気をもたらすのが氷妖精であり、冬妖怪のレティとは
根本的にできることが違う。 特にコントロールの精度で大きな差が生まれる。


春の足音が聞こえるこの時期。 彼女がムラの子供たちを対象にちょっとした催し物をやっている。
それはアイスクリーム販売である。 
アイスクリームを柔らかく作るには徐々に冷やしながらかきまぜることが必要である。 
氷妖精ではアイスキャンデーは作れてもアイスクリームを作ることはできない。
そこが実力の差なのだろう。


彼女が作るアイスクリームは幻想郷の外にあるアイスクリームと大差がない。
しかも外の世界で一般的に売られている安物のアイスクリームとはわけが違う。 かなり本格的なものだ。 
匂いもバニラビーンズを使用したもので、合成バニラエッセンスとはわけが違う。
できたアイスクリームは子供たちにふるまわれるだけではなく、阿礼乙女や紅魔館にも納品される。
ヴァンパイアの主人はありえない価格でアイスクリームを買い取っていて、
冬妖怪の大きな収入源になっているほどだ。


今年も、冬妖怪の周りには幻想郷の住民がおしかけている。
子どもたちに優先して振舞われるが、それ以降は妖怪同士の争奪戦となる。
あちらこちらで弾幕戦が繰り広げられる。 弾幕ごっことは程遠いかなり大人げない争いである。
特に今年は例の神社のおねえさんとかケロちゃん帽のカミ様が特に必死である。
二人ともうちの会社に注文すれば届くのだから今日くらいは周囲に譲るとか考えてほしい。


一方、メトセラ娘と上白沢も弾幕戦に加わっている。
二人ともアイスに執着するタイプではない筈だが、よく見たら場所をわきまえないで戦っている妖怪たちから
肝心の子供たちを守っているようだった。 流石である。


紅魔館へアイスクリームを運ぶ時は高速飛行が得意な天狗たちが受け持っている。
少しでも溶けないようにするためだ。
冷凍技術が未発達な幻想郷では、ごく一部の家にある冷蔵庫か魔法による高度な温度制御以外に
アイスを貯蔵する手段がないのでその日のうちにアイスクリームは消費される。
そして次の日はアイスの話でもちきりとなるのだ。


そして毎年のごとく天狗の新聞には な ぜ か 今年のアイスの味が掲載されていた。
輸送途中に何が起こっているのかは聞かない約束である。