□月 □日  No605 春 変質者の季節


春である。こう陽気が良くなってくると必ずといっていいほど出現する奴がいる。
この日メトセラ娘が半泣きになりながら私に助けを求めに来た。 
聞けば変質者が現れたそうで自分では対処しきれないのだという。
なぜ私に助けを求めるのかと聞いたら香霖が人を変態梁山泊塾長だと触れ回っているらしい。
いつかしばく。


気を取り直して情報収集。春とはいえ変質者と言ってもいろいろなパターンが存在する。
鬱病が高じて異常行為に出たら、薬屋を紹介して処方してもらえばいいし
妖怪で異常行動をする者がいる場合は、その行為が妖怪の生態的な問題かどうかを見極めないといけないのだ。
いつも一拍おいてから私が反応するのでいつしか変態専門家と言われるようになったのだろう。


心当たりがあるのでとりあえず現場へと向かう。 その女は露出狂でめそめそ泣いているところを近づくと
衣服を脱いでくるのだという。 メトセラ娘の話を聞く限りはただの変態だが、男性にとっては容姿次第では
大喜びといったところか。 メトセラ娘は用事があるから帰ると言ってどこかへ行ってしまった。
明らかに逃亡である。


程なくして、噂の通りの人物に出くわした。 えぐえぐと泣いている少女である。
どうしたのかとその少女の顔を見たら、顔のパーツがいっさいない。 いわゆるのっぺらぼうであった。
「おハルちゃん」と「あーっ」という声が完全にハモった。
これで全部の謎が解けた。


私は彼女のことを出雲のおハルちゃんと呼んでいる。本当はやんごとなき名前があるらしい。
彼女は見ての通りのっぺらぼうである。実は顔のパーツがお尻についている。
いわゆる「尻目」と呼ばれる種族である。
聞けば朝倉が作った顔をつくるためのスペルカードが破損したそうで、修理を頼むにも頼めなくて
ここで泣いていたのだという。
彼女は相手の顔を見るために服を脱がないといけない為しばしば露出狂と勘違いされるのだ。


この手の話に弱い朝倉は彼女のために顔を作るカードを作った。
どういう仕組みかは分からないが、カードが発動している間は普通の町娘の姿になれるというものだ。
早速朝倉に手配してカードプリンタで即席のスペルカードを作る。 とりあえず数日はこれでしのいでもらい
次の機会に新しいカードに交換することにする。


おハルちゃんと話をしたら最近は全部脱ぐのではなくて、下に着衣をつけているのとのこと。
ならば問題がない筈だが、誰にそれを聞いたのかと訪ねたら詐欺師兎と聞いて一気に背筋が凍り付いた。
服を少しだけ脱いでもらったら、ボンテージの衣装が姿を現した。
あの腹黒兎は一回鍋にして食うしかないと思う。


こんな服装を着て恥ずかしくないのかと訪ねたら、やっぱり恥ずかしいと言うのでほっとした。
「その恥ずかしさが心地よく」とか言い出したが、きっと春だから仕方ないのだろう。
いつも通りの町娘の姿に戻ったおハルちゃんを見送って業務完了。
メトセラ娘にはそういう生態の妖怪だから変態呼ばわりしてはいけないと諭しておいた。


個人的には本当の変態は焼却処分してもらいたいのだがそれは無理な話だと思われる。