□月 □日  No606 幻想郷における精神病


例の神社にいつものように物資を届けていたら、自称現人神が見慣れない女の子を介抱していた。
衣服から外の世界の住民であることがわかる。
しばらく様子を見ていたら物陰からおねえさんから手招きされた。
行ってみると、そこには彼女の持ち物らしい薬の類があった。いずれも精神の薬である。


自称現人神がその女の子に影響されはしないかとおねえさんは心配していた。
とりあえず大丈夫だと答えた。
もちろん適当に言っているわけではない。


幻想郷で精神を害している者は多くない。 結界の外に比べれば明らかに比率は少ない。
単に鬱病などの概念が浸透していないのではないのかとも思ったのだが、
実際に割合は少ないのである。


それはなぜか? 幻想郷の人間は生活リズムがいつも一定だからなのだ。
幻想郷の住民は基本的に朝夜明けとともに起きて、太陽が沈むとお休みとなる。
これは人間のサーカディアンリズムに則ったとても自然な考え方である。
鬱病を患っていた人が拘置所で完治したなんて報告もあるのだ。


私に言わせれば精神の薬というのは風邪薬に近い特性があると思っている。
風邪薬も精神の薬も基本的な考え方は症状を緩和して、自分で直す為の手助けをするものだ。
決して根本的な解決策になっていない。
一時的に症状が緩和されても治ったわけではないので、薬の服用が常態化する。


おねえさんに外の世界にいる時分の自称現人神の暮らしぶりを訪ねてみた。
すると日の出とともに起きて、まずはおねえさんとケロちゃん帽のカミ様を
文字通りたたき起こすのだという。
その行動は幻想郷にやってきた今も変わっていないそうだ。
これなら大丈夫かもしれない
朝倉にも判断を仰いでみたら、しばらく一緒に住まわせて様子を見てからどうするか決めるとのことだった。


とりあえず、今日丸一日その子の幻想郷への引っ越し扱いにするための各種書類処理で
やたら時間を食ってしまった。住民票を請求したり保険証を複製したりと面倒なことこの上ない。
ボスは治療が完了したら幻想郷から脱出させてもいいと考えているようだ。
自称現人神の奮闘に期待したい。