□月 □日  No614 偉大な神様(他意はない)


浅間が妖怪の山のてっぺんでお酒を飲みたいと言うので全力で止めに入る。
幻想郷の山のてっぺんは強力な霊力が秘められており、下手に近づくことは自殺行為に等しい。
山頂には非常に危険な特性を持つカミがおり、彼らに関わると一生を棒に振るくらいの
ペナルティが与えられるらしい。


特に危ない山は山頂に向かうに従って、高木がなくなって岩だらけの土地に変貌することが知られている。
実はこれツリーラインと呼ばれ、ある一定の標高に達すると高木が立たなくなってしまう。
それがあたかも強力な結界が貼られているように見えるのである。


朝倉の話では、ツリーラインを超えると土の中にあるアンモニア濃度が極端に落ちるらしい。
土の中のアンモニアを作る微生物が活性化しないからだというのだが、
それは気温によるものではないようだ。
もし、気温が原因ならツンドラの森林が成り立たないことになる。
やはり何かしらの結界が展開されていると考える方が自然かも知れない。


森林限界を超えると植物を扱う妖怪や、虫妖怪も弱体化することが知られている。
風見女史と戦いたいなら、高山の山頂がおすすめだ。 
もっとも薄い空気で先にへばるのは自分の方である。


山岳神の中でも特にとんでもない特性を持つのが「コノハナノサクヤヒメ」らしい。
このカミは顕界でも幻想郷でも強力な力を持った類い希なるカミである。
あの「桜」も語源をたどれば、このカミ様に辿り着く。
例の神社にいるおねえさんやケロちゃん帽のカミ様でさえ辿り着けなかった領域である。


朝倉にコノハナノサクヤヒメのことを聞いたら「略奪愛」と言われた。
過去に色恋沙汰で色々引き起こしたらしい。
魂魄は彼女がまともな性格をしていたら西行妖はもっとまともだったと言っていた。
確かにいくら歌聖の想念を受けたからと言って、周囲を巻き込みながら妖怪化してしまうのだから
まともなはずがないという。 略奪愛といい、無関係な人の魂まで奪う特性といい
かなりアレなカミであることは間違いないだろう。


我々の話を浅間がぽんと手を叩いた。
「つまり、コノハナサクヤヒメはヤンデレなのです」
自分が接続しているカミに向かってよくもまあこんな言葉が出るものだと驚くやら唖然とするやら
何とも言えない気持ちになった。 自称現人神が聞いたらひっくり返ることだろう。


いずれにせよ幻想郷では特に用事がない限りカミと仲良くなるべきではないと思う。
どこまでもマイウエイな人以外は関わらないことが最良の選択である。