□月 □日  No113 甘粕の回顧録4


会社の施設内で事故。
地下で起こったため、ちょっとした地震が観測されただけで
大きな影響は起こらなかったものの、研究員の娘が行方不明になった。


それは、サボテンエネルギーという名前で呼ばれていたいたが
その実体は月の魔力であるらしい。
原子力よりも安全で、石油よりもコストが安いという触れ込みだったが
実際のところは原子力以上に制御が難しいものだったわけだ。


結局費用対効果の問題でサボテンエネルギーは実用化されぬまま
封印されることになった。炉心を支えるヒヒイロカネはゲンソウキョウに送ることになる。
炉心は厳重に梱包された。 寸法はわずか1尺四方の物体であるが
これ一つで山をひとつ消し去るほどのものであるらしい。
こんな物騒なものをゲンソウキョウに運び入れることは危険極まりないと思われるが
私には一つ心当たりがあった。


最近、ゲンソウキョウの竹林に炎をまとった少女が出没するようになったそうだ。
竹が熱せられて音が五月蠅いと周辺住民から苦情が来たため
一番の知恵者と呼ばれる白澤に尋ねた。
すると、竹林には炎をまとった少女の他に、月からやってきた姫様が住んでおり
いつも殺し合いをしているのだという。
あまり穏やかではないのだが、ゲンソウキョウの場合生と死の境界線も曖昧なためか
誰も深刻に受け止めていないようだった。


おそらく、月の姫様がいるゲンソウキョウにこの炉心をお返しすることが目的ではないだろうか。 
姫様がどういう目的でゲンソウキョウに住われているのかわからないが
できれば一目見てみたいと思う。 もっとも高貴すぎて私の目には眩しすぎるかも知れない。


研究員の娘はその後の捜索にも関わらずとうとう見つけることができなかった。
ゲンソウキョウでも彼女の捜索は始まっているが、万が一彼女がここに辿り着いた場合
彼女の安否は絶望的になるだろう。
高貴な月の姫なら彼女を見つけることができるのだろうか?