□月 □日  No638 薬屋の功罪


薬屋が幻想郷の町中に進出して結構な月日が経った。 よく効く薬を売っていると評判の一方で
色々と恨みを買い始めても居る。
薬屋に材料を納品するときも、それなりに警戒しないといけないくらいである。


薬屋は幻想郷に今まで殆ど用いられなかった化学薬品や抗生物質を持ち出した。
特に結核の数は減ったのだが、今度は顕界の方で耐性菌が生まれ始めている。
幻想郷内で幻想になったら今度は顕界に影響が出始める。それは自明の理だ。


だが最近ちょっとした問題となっているのが薬屋の処方した薬品で容態が急変する現象だ。
アナフェラキシー・ショックである。
社内でも薬屋の薬を服用して助かった人がいる一方で、この症状で死に至る場合も報告され始めた。
もちろん薬屋も手をこまねいているわけではなく、症状を抑えるアドレナリンを
頓服薬として一緒に処方しているのだが、ブレザー兎の説明があまり良くないため
今いち浸透していないのが実情だ。


アナフェラキシー・ショックを説明するのは確かに難しいと思う。
想定外だった異物に対して生命活動も困難にするほどの抗体を放出してしまう病気というのが
正しいと思われる。 この辺の知識は薬学人形メディスンメランコリーが詳しい。
メランコリーに言わせると、薬屋で売っている薬の実態は毒だから与え続ければ死ぬときもあると言う。
「毒」であるという本質を見抜いているメランコリーはさすがと言う他ない。


幻想郷の住民は今のところ、アナフェラキシー・ショックで人が亡くなっても
おおむね薬屋に感謝している。 本来なら終わっていたはずの命が少しでも長引いたのだから
儲けものだと言っている。
それがなんとも切なくて、やるせない気持ちでいっぱいになる。


薬屋の経営状態がいつまでも上向き加減にならないので、帳簿を見せてもらったら
大量の赤伝が切られていて閉口した。
大量の赤伝は、薬代のサービスや診療費サービスによるものだ。
そして、その患者を追いかけてみると、薬害で亡くなった人の肉親に辿り着いた。
彼女もまた責任を感じているのかも知れない。
とりあえず補償額を全部書き出して持ち帰ることにする。


余談であるが帳簿を精査していたら明らかに恋の病で薬屋のところへ来ている者の資料を発見した。
なぜか人形遣いのアリスのところへ転院になっていた。
一体何を吹き込まれるのかはわからないが、想像したくはない。